らーめん1杯1080円。苦渋の価格改定を断行し、お客・従業員・会社の三方よしを実現させた人気店~AFURI

2019/06/10
国内外の幅広い客層から人気のらーめん店「AFURI」。2003年、恵比寿に1号店をオープンして以来、首都圏中心に国内13店舗、海外3店舗を展開している(2019年6月現在)。リニューアルオープンした成田空港国際線JALファーストクラスラウンジでの提供も2019年4月からはじまり、話題を呼んだ。

もうひとつの話題が、らーめん店経営の常識をくつがえす価格設定だ。2018年6月に行った価格改定で看板メニュー『柚子塩らーめん』は業界異例の1080円に。これにより売上が伸びただけでなく、激務に追われて慢性的な人手不足に苦しむ日々から脱却できたという。一体どういうことなのだろうか。

激戦業態で生き残るブランディングには、斜め上の発想が必要

神奈川・丹沢山系東端に位置する大山(通称:阿夫利山)。その山の恵みである湧き水を使い、麓のセントラルキッチンで、らーめん店「AFURI(阿夫利)」のスープは毎日仕込まれる。淡麗系と称される澄み切ったスープに、国産全粒粉とライ麦を配合した細麺が特徴のらーめんは、男女を問わずファンが多い。国内外からの幅広い支持を得て、恵比寿や原宿、新宿、六本木などで東京を代表する人気店として展開している。

近年は訪日外国人客の来店が非常に多く、原宿など観光客の多いエリアの店舗は時間帯によっては9割近くに及ぶこともあるという。とはいえ、開店当初からインバウンドを見込んでいたわけではない。運営するAFURI株式会社の常務取締役平田展崇氏は「ここまでのインバウンド需要の成長は想定外でした。ただただ、ありがたいです」という。

「らーめんやカレーといった日本を代表するカジュアルフードは、メニューの自由度が高く参入障壁も低いです。そのぶん、過当競争が著しい分野で、生き残るために、どの企業も他店との差別化に心をくだいています。

我々もコントラストをはっきりさせるために、立ち位置としてはちょっと斜め上になるような考え方でブランディングしてきました。その方向性がインバウンドにマッチしたものと思われます。

たとえば、国や地域を越えてヴィーガンの裾野が広がり、注目されるようになったのは最近のことです。しかし我々は、海外における著名人のライフスタイルからトレンドの兆しを感じ、かなり以前よりスープから具材まで植物性100%の『彩り野菜のヴィーガンらーめん』を提供しています。

また、看板メニューの『柚子塩らーめん』は、こってりしたとんこつらーめんをヘビーだと感じる外国のお客様にも食べやすいとの声をいただきます。柚子という日本の柑橘類のフレーバーで、ジャパニーズカルチャーを感じられる点も喜ばれています」

近年、訪日外国人観光客は渡航の主目的が買い物から“体験”にシフトしているといわれる。わかりやすい観光地巡りや免税店での買い物よりも、日本ならではの体験を得たい、感じたいというニーズが高まっているのだ。ジャパニーズフードとして海外に広まっているらーめんを本場で味わいたい、というインバウンド需要にAFURIは応え続けてきた。

「ねじり鉢巻で腕組みをした頑固そうな職人が『へいらっしゃい!』というレガシースタイルもひとつの体験です。それに対して、我々はもっとポップで親しみやすい、ワールドワイドなスタイルを提供できればと考えています。

らーめん業態は、味の系統も価格帯も、非常に細分化されています。その中のひとつのスタイルとしてAFURIを築いてきた自負があります。『罪悪感の少ないらーめんを食べたい』『ちょっと贅沢したい』、そんな時に思い浮かぶ店でありたいと思っています」

看板メニューが1080円。らーめん業界に一石を投じる価格改定

2018年6月、AFURIは大きな決断を下す。すべてのメニューの価格を見直し、100円~の値上げを行ったのだ。その結果、看板メニューの「柚子塩らーめん」は、1080円となった。スペシャルメニューではない、お客の3割以上が注文する看板商品の1000円超えは、らーめん業界では異例だ。

「蕎麦やパスタなら1000円、2000円と払うのに、我々日本人は、1000円を超えるらーめんを高いと感じます。安くて早くて当たり前のB級グルメ、ファストフードだという根強いイメージがあるのです。確かに、お客様にお出しするところだけ見れば、麺を茹でて、丼にスープを注ぎ具を乗せるだけ、かもしれません。

でも、それはいわば調理工程のハイライトで、他の料理と同様そこに至るまで非常に手間がかかっているんです。本当は1500円だって安いくらい、B級どころか日本が誇るべき、世界に通用する料理だと思います」

実際に海外では、らーめんはファストフードではなく高級なスローフードとして認知されている。欧米では、多くの人々が列をなして、日本の物価に換算すると2000円超に相当するようならーめんを楽しんでいるという。

「誤解しないでいただきたい点として、らーめんにはさまざまなジャンルがあります。ワンコインでさっと食べるらーめんだってあります。あらゆるらーめんをすべてひとくくりにして“安い食べ物”としてしまう事に無理があるということです。

そのために、オーナー店長が毎日寝食を犠牲にして働いたり、従業員が体を壊してしまったり。多くのらーめん店で、どこかにひずみが生じています。

らーめん業態は飲食店の中でも求人が難しいといわれます。私もそうでしたが、独立を前提にした転職も少なくありません。AFURIも長年人手不足に苦しみ、新店舗の出店の際は全員出動、スクランブルみたいな状態でてんやわんやでした。

しかし、永続性を考えると、お客様も、従業員も、そして会社も、すべてを立てる『三方よし』でなければビジネスとして成立しません。そこで、AFURIがAFURIとして続けていくために、『従業員の待遇改善を目的とした価格の見直しをさせてください』とお客様に事情を説明し、頭を下げたんです。

料理・おもてなし・空間へのこだわりに一切の妥協はありません。それに対し、相応の対価をいただくことで会社として従業員に還元でき、永続性のあるビジネスとし成立します」

価格改定にともない、アルバイトの時給はその月から基本給が1050円から1200円にアップした(東京の場合)。社員も、家族手当や住居手当といった福利厚生を充実させ、条件によっては年収が50~100万近くあがった。

待遇改善によって離職率が下がり、人手不足は改善され、現在では従業員の月の残業時間の平均は10時間ほどだという。らーめん業態では奇跡といわれるほどの削減に成功している。

「値上げによって、お客様の数は5~10%あまり減りました。しかしそれは、半ば意図したことでもあります。1人あたりのお客様へ注ぐマンパワーがそのぶん増やせるので、接客も丁寧になりサービスレベルをあげることができるのです。実際に、客数は減っても売上は伸びています。

らーめん業態という、滞在時間10数分ほどの刹那的なご利用の中で、お客様のハートをいかにキャッチするか。全部は完璧にできなくてもいいから、お見送りだけはスタッフを1人増やしてでも、必ず誰かがきちんとお送りしようなど、AFURIとしてどうすれば正解なのか、日々模索しています。お客様との顔の見えるコミュニケーションへ時間を割けるよう、事務作業はシステムを使って効率化を図っているのもそのひとつです。

たとえば食材の発注は『BtoBプラットフォーム受発注』を利用しています。時間短縮だけでなく、仕入れ額を明確にデータ化することで、厳密な原価管理が可能になりました。また、『メニュー管理機能』の活用で、メニューごとに理論原価と実原価の2つの指標を出して管理しています。ラーメン屋だから言うわけではないですが、それまでのザル状態のどんぶり勘定から脱却することができました(笑)」

豊かな自然の恵みをベースに、愛し愛される店として

インバウンド需要は2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向けますます高まりをみせている。訪日外国人からの評価も高いAFURIは、新規オープンする商業施設などからのオファーが引きもきらない状態だという。

「我々は、これまで出店した店舗を1軒も閉めたことがありません。これからもそのつもりですので、新規出店は相手を選ぶというか、慎重になります。前述の三方よしを成立させるためには当然ある程度売上の見込める店舗が必要ですが、そればかりだと商業主義的なブランドになってしまいます。やはり水と緑、自然への畏敬がAFURIのコンセプトにあるので、そのバランスは大事にしたいです。

そこをご理解いただけるデベロッパーさんとは、相思相愛でやっていけるでしょう。愛したいし愛されたいというのが根底です。従業員に対してもそうだし、お客様に対しても、もっといえば食材を提供してくださる生産者のみなさんにも愛を持って接したいし、愛していただけるような関係性でいたいと思っています」

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