3ステップで始めるHACCP対策

2019年4月22日
食品衛生法の改正により、すべての食品等事業者に求められることとなったHACCP(ハサップ)制度。2020年6月までに制度が施行され、事業者は2021年6月までに実施することとなっています。具体的な基準については2019年の夏前までに「HACCPに沿った衛生管理」に関する政省令で公布される予定だが、事業者の中には、「何から始めたらいいか分からない」というところも多い。
HACCP制度への対応は、大掛かりな設備改修や専門家への依頼、認証などは必要なく、3ステップで始めることができます。その手順を見てみましょう。
[監修]公益社団法人 日本食品衛生協会

まだ間に合う、けど準備はそろそろ必要

日本政策金融公庫の調査によると、17年の時点で食品製造業者の8割超は導入済みか導入を予定・検討しているものの、導入時の課題は「施設・設備の整備(初期投資)、コンサルタントや認証の手数料などの資金」を挙げた。
また、当サイトが2019年1月に実施したアンケートでは、回答した外食企業の6割が、導入の目処が立っていない状態だった。「費用がかかる」「認証取得などの手続きが面倒」といった漠然とした不安や誤解が、導入の壁になっている可能性は高い。
HACCP制度施行スケジュール

制度化では大規模な設備の新設や認証は不要

誤解されがちな点だが、HACCPのために専門家を招く必要はない。また、事業者が自主的に取り組めばよいため、第三者機関によるHACCPの認証・認定を取得しなければならないわけでもない。必要なのは、これまで行ってきた衛生管理を、工程ごとに洗い出して「見える化」することだ。 では、食品衛生法が定めるHACCPの制度化とは、具体的にどのようなことが求められるのだろうか。原則としてすべての食品等事業者は、衛生管理計画を作成しなければならない。ただし、飲食業や小規模食品製造者など特定の事業者は、取り扱う食品の特性等に応じた「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という、簡略化したアプローチでよいとされている。 実際には飲食店や小規模食品製造事業者は、各業界団体が作成した「手引書」(厚生労働省のホームページから入手可能)を利用して、温度管理や手洗いなどのやり方を定め、簡便な記録をつけることが想定されている。 その際、必要があるなら、たとえば温度計の購入などはありえるが、設備面で大掛かりな整備や機材の導入などは基本的に不要だ。どの業界も共通してポイントとなるのは、1管理計画の作成、2実施、3記録・保存の3点である。次ページ以降でHACCP制度の取り組み方を3段階に分けて紹介するので、ぜひ導入に向けたはじめの一歩を踏み出してほしい。

3ステップでできるHACCP導入

ステップ1 衛生管理計画を作成する

日々実施する衛生管理を計画するため、施設や備品、従業員などの衛生が保たれているかチェックする項目を洗い出そう。ポイントは、「一般的衛生管理」と「重要管理」の2点だ。 ◎一般的衛生管理のポイント 原材料の取り扱いや施設・店舗の清潔維持、従業員の健康のチェックなど、工程ごとにリスクを洗い出し、対応を考える。基本的には、日ごろから実施している衛生管理を書き出して、要所を明確にすることだ。 原材料の取り扱いや施設・店舗の清潔維持、従業員の健康のチェックなど、工程ごとにリスクを洗い出し、対応を考える。基本的には、日ごろから実施している衛生管理を書き出して、要所を明確にすることだ。 ◎重要管理のポイント 一般的衛生管理でリスクを洗い出した結果、特に重点的に管理しなければならない工程を「重要管理点」という。最終的に製品を販売するかどうか判断する最後の砦だ。 重要管理点では、主に「生物的危害」「化学的危害」「物理的危害」の発生をどう防ぐか考えて、別の用紙にまとめよう。生物的危害と化学的危害は、目視によるリスクの確認が不可能だ。以下に食材ごとに管理すべき温度をまとめたので、マニュアル化して従業員に共有するなどして、対策を立てよう。
○作り置きする調理品
・微生物が増殖しやすい危険温度帯(10~60℃)に長く置かない。
・冷却する場合、30分以内に20℃以下にし、60分以内に10℃以下にする。
・再加熱する場合、充分加熱する。
○食肉・食鳥肉
・鶏肉は肉の中心部まで十分に加熱する(75℃で1分以上)。
・保存する場合、10℃以下(生食用牛肉は4℃以下)または60℃以上を保つ。
○卵
・割卵後は直ちに調理して早めに提供する。割り置きは絶対しない。
○魚介類
・信頼できる業者から仕入れる。
・新鮮なものを選び、海水でなく水道水でよく洗う。鮮度が低下したものは使用しない。
・生の魚は、短時間でも室温に放置せず冷蔵、冷凍する。
・解凍や加工は、低温管理を徹底する。
・魚の内臓は速やかに取り除く。生で加工・提供しない。
・寄生虫は目視で見つけて除去する。
または-20℃で24時間以上冷凍するか、60℃以上で1分間加熱する(70℃以上で瞬時)。
○野菜・果物
・よく洗い、必要なら殺菌する。
○米飯、めん類
・調理後は室内に放置せず、10℃以下または60℃以上で保存する。
○ふぐ、二枚貝、きのこ類
・食用のみを使用する。
管理温度
区分 管理推奨温度 法律上の温度
冷凍品 -20℃以下 -15℃以下
冷蔵品 食肉 3~0℃ 10℃以下
一部の食肉は4℃以下
鮮魚 3~0℃
乳製品 5~3℃
青果 7~5℃

ステップ2 計画通り実施する

衛生管理計画書の作成は、特別なことを求められているわけではなく、普段から行っていることを書き出せばよいことがおわかりいただけただろうか。必要なのは、誰でも同じようにできる手順と、計画に基づいて確実に実施することだ。 その際、実施者は「なぜ必要なのか」を理解しておくことがポイントになる。理解がなければ正しい実施ができず、継続的な管理も難しいだろう。責任者は、従業員教育の場を作ることが必要だ。

ステップ3 実施内容を記録する

計画を実施した後は記録を残し、1年間保管することが必要だ。記録することで衛生管理が適切に実施されているか確認でき、万が一問題が発生した場合、管理が適切だったことの証拠書類となる。逆にいえば、記録をとっていなければ食中毒の事故が発生した際に適正な管理を行っていた証拠がなく、顧客や取引先の信用も失ってしまう。 作業するたびに、または1日の終わりなどタイミングを決めて、必ず記録を残す習慣をつけよう。また、日々の記入者とは別に、内容を確認する責任者(マネージャーや店長など)を決めておこう。 継続して記録していくには、〇・×や良・否でチェックするといった、誰でもわかりやすく記入できるものが望ましい。業態や規模によって必要項目は変わってくるので、自社にあわせて考えてみてほしい。また、衛生管理計画は、一度作ってしまえばそれで終わりではなく、記録をもとに、定期的(月に1度など)に振り返りを行って、問題があれば改善していくことが大切だ。

工程ごとの注意点

食品工場や配送車、飲食店などでの工程で、特に注意が必要な箇所を抜き出した。食中毒の事故は、有害な微生物が繁殖して、他の食材に付着することで広がっていく。微生物が繁殖しやすい危険温度帯(10~60℃)に食品が長時間とどまらないよう注意し、その他の異物混入や食品表示ミスなどの事故も、しっかり管理して防いでいこう。
仕入れ ○食中毒対策 ・外装の汚れや破損、消費期限、においなど、衛生状態や腐敗の有無をチェック。
・残留農薬、食品添加物の不適切使用がないか、商品規格書でチェック。
保管 ○食中毒対策 ・冷蔵・冷凍品は室温に置く時間をできるだけ短くする。
・生肉や生魚などはフタ付きの容器に入れて冷蔵庫の最下段に配置。
製造 ○異物混入対策 ・製造機器、調理器具類は部品の欠損がないかチェック。
・金属探知機などは正常動作しているかチェック。
○コンタミネーション(アレルゲンの意図しない混入)対策 ・製造機器や調理器具類はできるだけ専用のものを使用。共用する場合は充分に洗浄。
・製造・調理する順番は、低アレルゲンのものから始める。アレルゲンは商品規格書などでチェック。
包装 ○法令対策 ・表示ラベルは、アレルギーや賞味期限などに誤りがないか商品規格書でチェック。
配送 ○食中毒対策 ・製品を直接日光、不適切な温度帯に長時間さらしたりしないように注意。
・においの強い製品とそうでないものを一緒に運搬する場合は、移り香に注意。
・未包装、簡易包装の製品は、出荷用具を覆うなどで対策。
調理・提供 ○食中毒対策 ・非加熱のもの(冷蔵品をつめたいまま提供)は、冷蔵庫から出したらすぐ提供(例:刺身、冷奴、サラダ、酢の物など)。
・加熱するもの(冷蔵品を加熱し、熱いまま提供)(加熱後、高温保管するもの)は、加熱時間、表面の焼け具合などをチェック(例:ステーキ、焼き魚、天ぷら、炒め物など)。
・加熱後に冷却し再加熱するもの、または加熱後冷却するものは、速やかに冷却する。再加熱する場合は、気泡や見た目などをチェック(例:スープ、ポテトサラダなど)。
・手洗いを徹底し、2度洗いしたあとにアルコールでの消毒を奨励する。
・手指に手荒れや化膿巣のある人は、食品に直接触れない。耐水性ばんそうこうをつけた上から手袋をする。
・下痢など消化器系症状のある人には調理させない。
・調理器具は塩素系殺菌剤などで殺菌する。
・肉、魚、野菜などの食材ごとに、調理器具を分けて使う。
・肉や卵に触れた手指や器具は、その都度洗浄、消毒する。
・消費期限が過ぎたものは廃棄する。
○アレルギー事故対策 ・注文者に調理品を正確に提供して、誤配膳を防ぐ。

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