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2017年1月13日 野田 翔一
製造業であれ小売業であれ、決算業務・申告の準備の際には、期末棚卸をします。しかし棚卸による利益の確定について、実は分かっていなかったという話をよく聞きます。決算での期末棚卸は、仕入金額のうち、今期売った分だけを経費とする考え方です。今日はこのあたり考えてみたいと思います。
当期があと何日かという決算月の会社で打ち合わせを行っていると、不意に社長さんから、こんなことを言われることがあります。
社長「利益が思ったより出そうだから、商品仕入を多めにしとこうと思うんだけど」
野田「仕入して、期末までに手元に届いても、全部経費になるわけじゃないですよ・・・」
社長「・・・?」
という流れです。
あるいは、こんな場合もあります。
社長「仕入したんだけど、期日より早めに今期中に代金決済したほうが良いよね?」
野田「払っても払わなくても、利益には影響でませんよ・・・」
社長「・・・?」
前半は、社長が会計の期末棚卸を理解していなかったケース。
後半は、棚卸での利益確定を理解していないのとプラスして、キャッシュを払えば経費である概念にとらわれている社長のケース。
支出と費用(経費)については、過去記事を参照してもらえればと思います。
※バックナンバーリンク:現金回収までの期間でみる、収益と収入、費用と支出の違い
それでは棚卸による売上と売上原価、売上総利益の確定について見ていきましょう。
以下は、決算書で損益計算書の一番はじめに出てくる部分です。
売上があり、売上から売上原価を差し引いたものが、売上総利益となっています。期末棚卸の金額が、決算の数字に影響をしてくるというのは、ここの部分です。
売上原価は、仕入金額のうち、売ったものの分だけを集めた金額となります。売上総利益を出すためには、売上とそれに対応する売上原価の対称性から導き出す必要があるわけです。
売上原価の計算は、期首商品(前期末に残っていた在庫、言い換えると期首に手元にある在庫)に当期仕入をプラスして、一旦小計を出します。その金額が、当期中手元にあった商品の金額の合計です。ここから、期末商品(棚卸在庫の金額)を差し引くと、売上原価が出ます。これは商品の仕入金額のうち、売ったものの分だけの合計額です。
期末商品の金額は、当期仕入のなかに含まれます。このため期末商品を差し引かないで売上原価を計算すると、売っていない(売上に計上されていない)商品まで、売上原価に含めてしまうため、正しい利益が計算できません。
これが分かっていないと、期末に駆け込みで仕入れた1,200,000円の期末在庫が、経費とならないため、利益が1,200,000円狂うことにもなりかねません。また、売上原価の計算では、当期仕入に期首商品をプラスする過程がありますが、一旦仕入にプラスすることで、これは売上原価を増額させています。
当期仕入を基準に考えると、期首商品はプラスし、期末商品はマイナスする。それで売上原価を求めます。
毎月棚卸をするか、過去のデータからある程度の幅で売上原価を推定できる場合は別として、期末まで棚卸を認識しない会社であるなら、期末に大きく数字が変わってしまいます。しっかり棚卸は把握されたほうが良いでしょうね。
棚卸の考え方は、簿記検定を受けた人ですら実は意味は分かっていなかったということがあるように、一回どっぷり深く浸かってみないとなかなか分かりにくい論点です。ただ、分かりにくいだけに、それが分かっていればそれなりにアドバンテージともなり得ます。
野田 翔一
1985年生まれ。千葉商科大学大学院修了。税理士。
都内税理士法人を経て、現在は野田税務会計事務所に所属。
野田税務会計事務所ホームページ
http://www7b.biglobe.ne.jp/~noda-kaikei/
税理士 野田翔一 シゴトブログ
http://zeirishi-noda-blog.com/