新潟県阿賀野市はデジタル技術の導入による業務変革を進めており、財務会計システム刷新における電子決裁機能の導入と合わせて、令和7(2025)年3月に『BtoBプラットフォーム 請求書』を導入しました。取引事業者側の請求事務と、市側の支払事務の双方の業務効率化と生産性の向上を図り、出納事務の適正執行につなげています。
サービス導入の背景と効果
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課題
- 年間約2万件に及ぶ紙の請求書を処理する必要がある
- 支出命令伝票の作成に1件あたり10分の時間が必要
- 紙ベースの請求書管理だと保管スペースの圧迫や原本紛失のリスクがある
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決め手
- 取引事業者が無償で利用できる電子請求の仕組み
- 財務会計、電子決裁システムとのスムーズな連携
- 操作マニュアルの作成や職員への説明会の実施などユーザー定着化を支援
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効果
- 請求書処理時間を1件あたり3分に短縮、職員の処理時間の削減
- 事業者が請求書を郵送・持参する際の費用と手間を軽減
- 請求書をシステム内で保管することで原本の紛失リスクを低減
総合計画に掲げた「デジタル活用の視点」に立った財務事務の効率化
阿賀野市について概要をご紹介ください。
総務部 企画財政課 デジタル化推進室 室長(以下、室長):
新潟県阿賀野市は平成16(2004)年4月に、北蒲原郡安田町、京ヶ瀬村、水原町、笹神村の旧4町村の合併によって設立されました。新潟平野の中央付近に位置し、約6,500ヘクタールの水田が広がっています。新潟市から南東へ約20キロメートルの地点にあり、都市部に近接しつつ自然環境も豊かな地域です。
なかでも国の天然記念物に指定されている瓢湖(ひょうこ)は、冬季に多くの白鳥が飛来する湖として知られています。また、五頭山は5つの峰を持ち、晴天時には日本海や佐渡島を望むことができます。さらに、五頭温泉郷は環境省により国民保養温泉地に指定されており、全国でも有数のラジウム温泉(放射能泉)があります。
最近の動向としては、令和7(2025)年6月に国道49号・水原バイパス(阿賀野バイパス)が全線開通し、新潟市との交通アクセスが向上しました。バイパス沿いには、令和4(2022)年8月開業の阿賀野市初の道の駅「あがの」があり、地元農産物や特産品が販売されています。

DXにも積極的に取り組んでいると伺っています。その詳細も教えていただけますか。
室長:
阿賀野市まちづくり基本条例に基づき、市の政策を定める最上位の計画として、令和7(2025)年3月に阿賀野市総合計画の「基本計画2025-2028期」を策定しました。「みんなで創る阿賀野市」の理念のもと、「住み良い、いきいき元気なまち」を目標に、市民が心身ともに豊かで幸福な生活を営める地域社会の実現を目指すものです。
この総合計画内でデジタル技術の活用について、積極的に検討することを掲げており、デジタル技術の導入による変革を推進し、出納事務の適正執行につなげていきたいと考えています。
年間2万件の紙の請求書処理による出納事務の苦労
まず阿賀野市における出納事務の適正執行とは、どのような業務を指すのか教えてください。
総務部 企画財政課 デジタル化推進係 係長(以下、係長):
当市においては、各担当職員が請求書を受領し、支払いに向けた伝票の作成を行っています。伝票の作成については、正確かつ適切に行われることが求められており、これまでも全職員が実践してきていますが、今後に向けてより確実に業務を執行していくための継続的な取り組みが不可欠だと考えています。

これまで取引先からどのような形で請求書を受け取っていましたか。
総務部 企画財政課 デジタル化推進係 主事(以下、主事):
物品購入や業務委託などあらゆる業務において、取引事業者から郵送や持参で紙の請求書を受け取っていました。約1,000社の事業者から受け取る請求書は年間約2万件で、これとほぼ同じ件数の支出命令伝票を発行しています。
紙の請求書受取後のフローについても教えてください。
主事:
市役所の各部署で受領した紙の請求書について、担当者は不備がないか内容を確認し、問題がなければ財務会計システムに入力して支出命令伝票を作成します。さらに同システムから伝票印刷を行い、請求書原本に契約書などの書類のコピーを貼付したうえで決裁に回します。決裁は担当から係長、課長補佐、課長というルートで行われますが、金額によっては部長や副市長、市長まで決裁を必要とする場合もあります。そして全員の承認を終えた支出命令伝票は会計課に提出され、最終的な審査を経たうえで支払処理が行われます。
なお、当市の支払日は月4回設定しており、所定の期限内にできるだけ早いタイミングで支払を行っています。

支出命令伝票の作成には、どれくらい時間がかかるのでしょうか。
主事:
先に述べたとおり関連書類を取り揃えて貼付する手間もありますので、1件あたり10分程度を要していました。
紙の請求書の処理には、その他にどのような課題がありましたか。
主事:
請求書の転記誤りや押印漏れといったミスに加え、関連書類のコピー作成や伝票検索の手間、保管スペースを圧迫するといった課題がありました。また、紙の請求書を管理するうえでは原本を紛失するリスクもあります。
財務会計システム刷新を契機に電子請求書を導入し、庁内定着化も並行して実施
上記のような課題も踏まえつつ、請求書受取業務を電子化しようと考えた理由を教えてください。
係長:
きっかけとなったのは、財務会計システム刷新における電子決裁機能の導入です。これに合わせて電子請求書を導入することで、請求・支払事務に係る事業者と市の双方の工数を削減し、地域社会全体の生産性向上を図りたいと考えました。
そして令和5(2023)年度にシステムベンダーから『BtoBプラットフォーム 請求書』を含むこの一連のシステム更新・拡張の提案を受け、検討を開始し、「デジタル田園都市国家構想交付金(TYPE1)」を利用する形で令和7(2025)年3月に『BtoBプラットフォーム 請求書』を導入しました。
『BtoBプラットフォーム 請求書』の導入にあたって、庁内の各部署の反応はいかがでしたか。
主事:
これまでとは異なる手順で請求書を受領することに対し不安を感じる職員もいましたが、インフォマート社に作成していただいた操作マニュアルや当市で作成した操作マニュアルによって、伝票処理への不安を軽減できたと考えています。また、インフォマート社の担当者が当市まで足を運び、庁内向けの説明会を2回にわたって開催していただいたことも電子請求書の定着化に寄与しています。
取引事業者にはどんな形で通知・案内を行ったのですか。
主事:
約1,000社ある事業者の中で利用頻度の高い234社に案内を送り、Web説明会を実施しました。50%以上の方に参加いただき、説明会のあとで寄せられた質問については、市のホームページを通じて回答を掲載することで、事業者の疑問や不安の解消に努めました。
実際の運用に至るまでに、苦労した部分はありますか。
主事:
当市から招待をしようとした取引先の中に、すでに『BtoBプラットフォーム 請求書』を独自に有料利用している事業者がいました。この事業者の登録をどうすればよいのか悩みましたが、インフォマート社のサポートを受け、逆に事業者側から当市が招待を受けるという方法をとることで、問題を無事に解決できました。
『BtoBプラットフォーム 請求書』導入後、請求書の受領後のフローはどのように変わりましたか。
係長:
令和7(2025)年3月に『BtoBプラットフォーム 請求書』を導入しました。紙の請求書と違って各部署に振り分ける必要はなくなり、各担当者は請求書を受領したことを自部門宛てに『BtoBプラットフォーム 請求書』から送られてくるメールで確認します。
請求書の内容は、自動連携された財務会計システムにログインすることで閲覧することができ、不備がないことを確認したうえで財務会計システムの電子請求書連携執行機能を用いて支出命令伝票を作成し、すべてのルートが電子化された決裁のフローに流すという形をとります。

電子請求書はどんな効果をもたらしていますか。
主事:
電子請求書の内容は自動的に財務会計システムに取り込まれるため、担当者は最小限の確認と入力で済むようになりました。これにより支出命令伝票の作成処理に費やす時間は、従来の1件あたり10分程度から2~3分へと短縮されています。
一方で電子請求書を利用する事業者も、請求書を郵送したり持参したりする際の費用と手間の負担が軽減されています。併せて紙の紛失リスクも低減されました。
係長:
ペーパーレス化の効果も実感しています。保存する紙の量を削減するとともに、紙の請求書や関連書類をスキャンしてから支払命令伝票を作成しなければならなかった手間を削減し、各担当者の業務生産性を高めています。また、郵送の場合には到着までに数日を要していた時間が削減され、その分、支払までの期間も短縮しています。
今後に向けた展望もぜひお聞かせください。
主事:
電子請求書の利用率をいかにして引き上げるかが課題です。事業者への周知や説明方法の工夫などを検討しています。
室長:
当市では財務会計システム刷新に合わせた今回の電子請求書の導入を機に、庁内DXをさらに前進させていこうとしています。例えば文書管理システムの更新を控えており、こちらについても電子決裁機能を導入することで、会計事務から文書管理全般にわたるペーパーレス化の推進を目指す計画です。
※掲載内容は取材当時のものです。