福島県の中核都市のひとつ、いわき市は、「市民ファースト視点で利便性を向上」、「便利で効率がよいワークスタイルの実現」、「庁内カルチャーの変革」を掲げた自治体DX戦略を策定、デジタルによる変革を進めています。令和7(2025)年1月には『BtoBプラットフォーム 請求書』を導入。事業者の利便性を高めながら、年間10万件超ある請求書受領の効率化・ペーパーレス化を目指します。
サービス導入の背景と効果
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課題
- 紙の請求書を年間約10万件以上処理する業務負担を低減したい
- 大量の書類の保管コストが年間100万円以上発生している
- 請求書発行側である取引事業者の利便性を高めたい
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決め手
- 請求書クラウドサービスとして利用企業が多い
- 事前の事業者アンケートで多くの取引事業者が請求書電子化に前向き
- 利用している財務会計システムと連携可能
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効果
- 請求書のデジタル化で、最大年間約1万3,000時間の作業時間短縮を見込む
- 請求書の処理状況が可視化され、支払の漏れ・遅延リスクを低減
- 業務デジタル化とペーパーレス推進の広がりを期待
課題は年間10万件以上の請求書処理業務の効率化
いわき市の概要をご紹介ください。
会計室 参事 兼 室長(以下、参事):
いわき市は福島県の東南端にあり、東京から特急で約2時間、車で2時間半程度と首都圏に近い中核都市です。東北地方最南端に位置し、東京23区の約2倍の市域は温暖な気候で雪もほとんど降りません。寒流と暖流が交わる「潮目の海」で水揚げされる「常磐もの」と呼ばれる水産物は人気が高く、日本有数の日照時間を活かして、お米をはじめ野菜や果物などの栽培も盛んです。
また、いわき市は日本におけるフラ文化発祥の地、「フラシティいわき」として知られ、映画にもなったスパリゾートハワイアンズから生まれたフラ文化が根付いています。高校生のフラ全国大会、フラガールズ甲子園が毎年開催されるなど、フラを身近に感じられる都市です。
所属されている会計室での業務を教えてください。
会計室 審査係 主査(以下、主査):
会計室 審査係は、各担当課の支出に関する伝票や書類の審査を担っており、内容の誤りや不備をチェックしています。事業者の請求に基づく支出伝票は年間10万件以上、加えて人件費や旅費など請求書のない内部関係の支払が約5万件発生します。これらを7人で分担して処理しており、1人あたり年間約2.5万件を担当している計算です。また、会計事務のデジタル化も当部署の担当です。
いわき市の会計事務DXの取り組みを教えてください。
参事:
いわき市では、令和3(2021)年に策定した「いわき市行政DX戦略」、令和4(2022)年の「いわき版『骨太の方針』」において、内部事務のデジタル化・ペーパーレス化を推進し、事務効率化を図る構造改革に取り組んでいます。効率化により削減したマンパワーを市民サービス向上へ注力する狙いです。
主査:
会計事務デジタル化の具体的な取り組みは2本柱です。ひとつは電子決裁・電子審査の導入で、従前の紙出力・メール便による回送を廃止し、システム上で決裁・審査を可能にするシステムを、令和6(2024)年10月より運用開始しています。もうひとつが請求書のデジタル化で、電子請求書システム『BtoBプラットフォーム 請求書』を導入し、令和7(2025)年1月より運用を開始しています。
従来の紙の請求書の処理には、どのような課題があったのでしょうか?
主査:
課題は処理件数の多さに対する業務の非効率さでした。取引の約半数は文房具などの消耗品、光熱費などの需用費で、ほかに委託料・扶助費・役務費などがあります。
消耗品は事業者が各部署に納品したついでに注文を受けることが多く、各部署では紙の請求書を納品時に受け取る形がほとんどです。庁内には120以上の部署がありますので、1日あたり最大100枚近い請求書が発生していた可能性があります。
各部署では請求書をもとに財務会計システムへ入力して支出命令書を作成し、部署内で紙の押印決裁を経て請求書や納品書などを添付した上で会計室に回送していました。記載漏れや転記ミスなどが原因の差戻しが全体の5%ほどあり、差戻しや期限失念などが原因の支払遅延を防ぐためのイレギュラー対応は業務負荷となっていました。
また、請求書そのものに不備があった場合、事業者に差戻すため、事業者側にとっても再発行の手間や、郵送もしくは持参のコストがかかってしまう懸念もありました。
参事:
文書保管のコストも課題でした。膨大な書類は廃校を利用した市全体の保管場所だけでは保管しきれず、会計室では別に倉庫を借りており、賃料や警備などで年間100万円ほどコストがかかっています。毎年の文書整理作業のほか、会計検査や行政情報の開示請求などで文書閲覧が必要な場合は出向いて探す必要があり、時間と手間を費やしていました。
事前アンケートで事業者の半数が前向きに検討。実証実験を経て導入へ
電子請求書の導入の経緯を教えてください。
参事:
ベースにあるのが、令和4(2022)年12月に実施した、市内事業者約1,000者を対象に実施したアンケート調査です。「いわき市行政DX戦略」に基づく会計事務のデジタル化の検討にあたり、事業者にどれほどニーズがあるか実態を伺いました。半数程度から回答を得られた中で、電子請求書に関しては約5割の事業者が「導入したほうが良い」との意向、逆に「導入しなくても良い」との回答は1割ほどでした。
そこで令和5年(2023)に庁内DXを推進する部署の主導で実証実験も行ったところ、結果伝票の起票から会計室の支出審査まで、平均すると1件あたり約18分かかっていた作業時間が約10分に短縮されました。年間10万件ですので、全てが電子請求書になれば約1万3,000時間、半数でも電子請求書になれば、年間にして約8,600時間の業務効率化に繋がると試算しました。
『BtoBプラットフォーム 請求書』を選んだ理由をおきかせください。
参事:
国内シェアが高く、導入企業数が多いため、事業者のスムーズな利用を期待しました。また、既存の財務会計システムと連携可能とわかり、庁内の会計事務の業務効率化への期待もできました。実証実験に参加した複数の部署でも、操作性や効率化でおおむね高評価を得られ、手ごたえを感じたのも理由です。
導入にあたり、財務規則やルールなどの見直し、変更は行いましたか?
主査:
請求書様式を見直しました。いわき市は財務規則の中で納品兼請求書の様式を定めていましたが、これを廃止しています。また、自治体の会計事務では、まず契約書に基づいて「支出負担行為」で支出の上限を決め、事業者からの請求後に「支出命令」を2段階踏みますが、科目や金額によっては「支出負担行為兼命令」として1回で処理できる場合もあります。令和5年度までは需用費も2段階でしたが、1回で処理できるよう変更しました。
また、財務会計システムとの連携にあたり、事業者コードや組織コードをどのように紐づけるかの要件定義は時間をかけて行っています。庁内120を超える部署があり、年度で部署が変わる場合の更新をどうするか、財務会計システムと電子請求書システムとの作業分界点の整理なども行いました。
ミスを防ぎ業務時間も短縮。学校事務にも広げ、利便性の向上へ
『BtoBプラットフォーム 請求書』導入後について教えてください。
主査:
現在、取引の多い市内事業者150社ほどにお声がけして運用しています。
財務会計システムと連携しており、『BtoBプラットフォーム 請求書』で請求書が届くと、「未処理件数」として表示されます。所属の全員が見る画面ですので、請求書の紛失や処理漏れといったミスは起こりません。
財務会計システムには事業者が入力したデータそのものが反映されるため転記漏れや誤記載の心配もなく、あとは足りない項目を担当者が入力するだけで支出命令起票は完了します。請求書や納品書、見積書などを電子データで添付し電子決裁システムで所属内決裁を経て会計室へ電子審査が回送されます。審査担当者による審査ののち、会計室内で決裁をまわして支払処理へという流れです。
書類の保管も、『BtoBプラットフォーム 請求書』を通じて行った取引に関しては不要になりました。見積書や納品書など紙で受け取る書類は保管が必要なため、保管にかかるコストのすべてが解決したわけではありませんが、データで保存するものについては検索性も高まっています。
事業者側とのやりとりはいかがですか?
主査:
『BtoBプラットフォーム 請求書』利用事業者については、意思疎通がかなりはかれていると感じます。これまでの紙のやりとりでは差戻しに関して、電話したり直接来た時にお話をしたりで、内容が正確に伝わったか、言った言わないとなる場合がありました。デジタルなら履歴として残ります。処理もオンラインで完了するので、請求書のために来庁する手間や郵送費などの負担を軽減できています。電子請求書の利用により、行政・事業者双方の利便性向上が図られると期待しており、利用事業者の拡大に向け、引き続き普及・啓発していきたいと思います。
今後の展望をお聞かせください。
主査:
市の教育委員会に所属する小中学校がそれぞれ行っている消耗品の発注や納品については、これまで環境が整っておらず電子化が保留になっていました。準備も整い、令和7(2025)年11月以降は、電子化を進めていくスケジューリングです。学校は消耗品が多く、年間1万6000件ほど取引が発生しており、学校事務と事業者双方の業務負担をデジタルで低減できればと考えています。今後も事業者の電子請求書の利用率向上で利便性と満足度を高めていただくべく、DXの推進に取り組んでまいります。
※掲載内容は取材当時のものです。