家庭用品、消費財のトップメーカー花王。その花王グループ国内各社の経理・会計領域のシェアードサービスを担っているのが、花王ビジネスアソシエ株式会社様です。BPOや間接材調達の集約化などで、経理業務のDXに先駆的に取り組んできた花王が請求書の受取に『BtoB プラットフォーム 請求書』を導入。インボイス制度スタート目前の今、花王が目指す経理DXについて伺いました。
ココがPOINT !
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『Remota』とのAPI連携で紙の請求書データも一元管理
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業務フローを見直し、請求書の処理工程は1/3に短縮
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データ活用によって、人が本来やるべき業務へ注力
BPOから内製化へ、年間30万件の請求書処理業務の効率化プロジェクト
花王グループ国内各社の経理機能は、花王ビジネスアソシエ様に集約されているそうですね。
会計サービスグループ部長(以下、会計グループ部長):
パンデミックや高齢化、環境問題といった社会課題に対し、花王グループは「豊かな共生世界の実現」をパーパスに定め、消費前提のモノづくりから資源を循環させるモノづくりへと、変革を進めています。
洗剤・サニタリー製品のトップメーカーとして、ヘルス&ビューティケアや、ライフケア、化粧品といったコンシューマープロダクツ事業(一般消費者向け製品)で紹介される機会が多い花王ですが、ESGやSDGsの高まりもあって、法人向けのケミカル事業(工業用製品)、プロフェッショナル・サービス事業(業務用製品)領域も注目されています。産業界のニーズにきめ細かく対応した製品を広く展開し、持続可能な社会における豊かな生活文化への貢献が花王の目指すビジョンです。
花王ビジネスアソシエ(以下、KBA)は、国内花王グループ17社に支払、決算や財務処理、経費精算などのシェアードサービスを提供しています。私たちのチームは東京・墨田を拠点とし、債務側、請求書の受取、計上などが主な業務です。
花王グループでは経理業務の効率化には、DXという言葉が出る以前から取り組んでいます。遡りますと2009年には日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)の中国・大連センターに証憑類のチェック業務を委託しました。国内最大規模の経理業務BPO(アウトソーシング)として当時かなり注目された事例でしたが、2022年に内製化しました。業務プロセスを紙ベースからデジタルへ変更するためです。
2017年からは、さらなる効率化を目指すDAP(Digital Transformation of Account Payable)プロジェクトを立ち上げ、支払業務の自動化に取り組んでいます。『BtoB プラットフォーム請求書』の導入も、その一環です。
DAPプロジェクトについて、具体的に教えてください。

会計サービスグループ 担当者A (以下、担当者A):
BPOをはじめた時点の請求書の処理業務は当然、すべて紙ベースです。グループ各社の各部署にそれぞれ届く請求書を、花王の自社システムに手入力していました。サイン台帳を兼ねたバーコード付き伝票を起票して請求書を貼付、上長の承認を経たものが社内便や配送でKBAに届いていたんです。KBAでは仕分けとスキャニングを行って大連に送り、大連では70人がその内容をチェックしていました。請求書だけで、年間で30万件以上の処理でした。
DAPプロジェクトは紙ベースの処理から脱却し、電子請求書やRPAなどによるデジタル化で支払プロセスを自動化する取り組みです。入力作業の削減といった効率化だけでなく、工程の可視化によるガバナンスの強化といった効果も期待しています。
まずは、間接材の購買を『KAO モール』というe-マーケットプレイスに集約し、かなりの効率化をはかることができました。ただ、『KAO モール』によってデジタル化できるのは審査も経て売買契約を締結した継続取引です。たとえば年に1度発生するような協賛金、年会費といった請求書はデジタル化が困難で、紙のまま取り残されていました。自動化は紙ベースではできません。そうしたスポット取引の請求書のデータ受領を主な目的に、『BtoB プラットフォーム 請求書』を導入しました。
会計グループ部長
『BtoB プラットフォーム 請求書』は、BPOを委託していた日本IBMからの紹介でしたが、その前からサービス自体は知っていました。グループ会社の花王プロフェッショナル・サービス株式会社が、中小企業庁の委託で行った業務品の卸・小売業界における共通EDI連携の実証実験に『BtoB プラットフォーム 受発注』を導入して、FAX受注を削減した事例を見ていたんです。フード業界向けのサービス展開というイメージでしたが、『BtoB プラットフォーム 請求書』が成長著しい、国内導入企業で圧倒的なシェアを獲得しているし、これは信用しようと採用しました。
採用のもうひとつのポイントは、誰でも使える操作性です。グループ会社には配置転換があり、極端な例ですが、化粧品売り場のビューティアドバイザーが経理部門に異動するケースもありえます。また、今後は就労人口の減少と従業員の高齢化も深刻な課題となってきます。経理業務未経験でも負担なく業務を遂行できる仕組みが必要でした。
『BtoB プラットフォーム 請求書』とAI-OCRのAPIシステム連携で請求データを一元化
『 BtoB プラットフォーム 請求書』導入の効果はいかがですか?

会計サービスグループ 担当者B (以下、担当者B):
現在、4,000社弱の取引先のうち、約1,000社あまりの取引を『BtoB プラットフォーム 請求書』でデジタル化しています。残った約3,000社分の紙の請求書はAI-OCRサービスの『Remota』(ファーストアカウンティング株式会社)でデータ化しており、これまで年間約30万件受け取っていた紙の請求書は今、10万件くらいまで削減できています。
紙の請求書の受取はこれまでの各社各部署ではなくKBAに集約した後、RPAによって自動選択した承認ルートで各社各部署の社内承認を経てKBAに戻ってくる流れです。これまで請求書1件の処理に9工程必要でしたが、RPA連携で3工程まで削減されました。
紙の請求書も、『Remota』の『BtoB プラットフォーム 請求書』へのAPI連携で請求書データが自動連携し、支払内容の確定までの時間短縮につながっています。これまですべて人の目で行っていたチェックもRPAに任せることができました。請求書の受領から、ワークフローを介して申請内容を各部担当者へ転送するまでにかかっていた時間は、60分から10分に短縮しています。
一方でまだ課題もあり、AI-OCRも、読み取り精度はかなり高いものの、補正はゼロではありません。部署や担当者といった特定の情報を付与する手間が最後まで残りますし、明細まで読み込むので時間もかかっています。
いわゆる“かがみ”部分だけでなく、明細もデータ化しておられるんですか?
担当者B
経理は支払の部署ですし、支払時に明細は不要だとなりがちですが、花王グループでは明細は必要だと考えています。
会計グループ部長
デジタル化の効果のひとつにガバナンスの強化が上げられます。人の目だと時間がかかって現実的ではない細かいチェックも、可能になるのならやらない理由はありません。不正や誤りを許さない仕組みはこだわっていきたいです。
AI-OCRで明細まで読み込む企業はまだ多くないかもしれませんが、明細がデジタル化できたら次に素晴らしい展開が始まると考えています。人間がやるべき仕事はこういう仕事なんです。明細データを読み解いて、未来を予測する。新しい付加価値の仕事を作ることです。これまでは、正確な収支報告のための作業に追われていましたが、その部分を機械任せにできるようになれば、人間は機械にできない頭を使う仕事をしていかないといけません。
2023年10月スタートのインボイス制度はひとつの契機になると思っています。いずれPeppolネットワークですべてつながる、その先を花王は見据えています。
※Peppol(ペポル)…欧州各国を中心に採用が広がる、さまざまなデジタルドキュメントをやりとりするための標準規格。Peppolユーザーは、アクセスポイント経由でPeppolネットワークにアクセスすることで、参加する全ユーザーとデジタルインボイスのやりとりが可能となる。
花王グループだけに終わらない、社外も巻き込んだデジタルシフトを
今後の展望をお聞かせください。
担当者A
現在のプロジェクトで進めているデジタル化はまだ仮の姿で、最終的には、AI-OCRから『BtoB プラットフォーム請求書』、それに『KAO モール』、この流れを一本化したいと思っています。これからPeppol関連サービスが実用化していけば、実現できるのではと考えています。
会計グループ部長
デジタル化によって、数値化できなかった部分の可視化が可能になりました。これまでどの項目にどれほどエラーがあって、どんなリアクションが返ってきたか、暗黙知でしかなかった数値がわかるようになる、これがまさにトランスフォメーションの入り口なんです。数値が見えれば打つ手も考えられます。そうなれば、たとえインボイスが始まって混乱があってもすぐリカバリできると思います。
請求書を受領し支払処理する経理の業務は非競争領域です。それだけに、「花王だけ」「自分だけ」ではなく、みんなで手を組んでデジタル化に取り組むべきでしょう。だから、Peppolという共通言語が出てきた今がチャンスなんです。
「つながる」という価値は大事ですが、Peppolの登場で、つながった「その先」の価値が求められるようになります。『BtoB プラットフォーム』も、これからPeppolや他のプラットフォームともつながって新たな価値を創出してほしいですし、承認ワークフローの機能追加や基幹システムやSAPとの連携強化もしてほしい、これからの発展を期待しています。
※掲載内容は取材当時のものです。