食品衛生法、15年ぶりの大改正で対応するべきこと

2018年8月17日
外食だけでなく、食品製造、卸、小売など、食品業界の事業者に関わる「食品衛生法」が2018年6月に改正された。HACCPの制度化や食品リコールの報告義務化、健康食品の規制強化など、大きな見直しが行われている。今回改正された主な理由には、国際化の流れや社会情勢を反映したことが背景にあるとされている。 小規模な事業者であれば、国際水準は無縁だと考えるかもしれないが、HACCPに沿った衛生管理は今後、テナントとの契約や新規の取引でも前提として求められていくだろう。今回の改正では何が変わり、事業者にはどのような対応が求められているのだろうか。改正の背景とポイントを、専門家の見解とともに見てみよう。

なぜいま、食品衛生法は改正されたのか?

食品衛生法はもともと、食品汚染や腐敗、食中毒といった食の事故を防止し、安全性を確保するために1947年に定められた。食品の安全性確保のために必要な規制や措置を講じることが定められた法律だ。 制定以降初の抜本的な改正が行われたのは2003年。今回は、それ以来15年ぶりの改正となった。なぜ今、改正が必要だったのだろうか。改正の方向性を検討するために開催された厚生労働省「食品衛生法懇談会」で委員をつとめた、一般社団法人FOOD COMMUNICATION COMPASS(FOOCOM:フーコム)代表の森田満樹氏によると、「食品の安全を取りまく環境の大きな変化と、国際化に沿う流れ」が背景にあるという。 「食品衛生法はこれまでも、食品に関する問題が発生するたびに見直されてきました。2003年の大改正では、当時問題となっていたBSEや、中国産冷凍野菜の残留農薬案件などを巡って、食品の安全性に関する様々な課題が浮き彫りになったことが背景にあります。改正によって食品安全の規制を強化し、国などの責務を明確化したことで、食品衛生行政への信頼は高まりました。しかしその後の15年間に世の中もめまぐるしく変化し、食品の安全に関する新たな問題も発生していました」 環境の変化とは具体的には、世帯構造の変化、消費者の食に対する意識の変化などが挙げられる。少子高齢化が進んだことや働き方が多様化したことで、調理済み加工食品や外食、中食へのニーズが社会的に増加した。消費者全体に健康志向の高まりも見られ、健康食品の利用も広がっている。一方で、食中毒や異物混入、健康食品による健康被害といった、食の安全を脅かす問題は後を絶たず、食の安心・安全はいっそう意識されるようになった。 「その他にも食のグローバル化が一層進み、輸入食品の種類も増加していますが、国内の食品等事業者の衛生管理の手法や、食品用器具・容器包装の衛生規制の整備など、先進国を中心に取り入れている国際標準から遅れている部分もあります。2年後の2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催で日本が注目されることもあり、これらを国際標準まで高めていくのは喫緊の課題なのです」

法改正で、こう変わる。一目でわかるそれぞれのポイント

今回の食品衛生法改正によって何が変わったのだろうか。改正されたのは大きく分けて次の7項目だ。 このうち、多くの事業者にとって特に影響があると思われる(2)~(6)のポイントを下記にまとめました。

HACCPに沿った衛生管理の制度化

関係する業種 原則としてすべての食品等事業者 ひとことで言うと 外食なども含めたすべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施が求められる。ただし、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とされる。2020年6月までに施行され、施行後1年間は経過措置がとられる。 解説 HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:ハサップ)は、事業者が食中毒菌汚染等の危害要因を把握した上で、原材料の入荷から製品出荷までの全工程の中で、危害要因を除去低減させるために特に重要な工程を管理し、安全性を確保する衛生管理手法だ。先進国を中心に義務化が進められている。 小規模事業者や特定の業種向けに『取り扱う食品の特性等に応じた取組(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)』に基づいた手引書を各業界団体が作成しており、これらを参考にして衛生管理に取り組むことが求められる。 [参考]食品等事業者団体が作成した業種別手引書(厚生労働省)

特別の注意を必要とする成分等を含む健康被害情報の収集

関係する業種 製造者・販売者 ひとことで言うと 対象の食品は、いわゆる健康食品のうち、特別の注意を必要とするものとして厚生労働大臣が指定する成分等を含有するもの。これらは、健康被害情報や文献等による生理活性情報を科学的な観点で整理して手続きを経たうえで、特別の注意を必要とする成分等の指定を行う(検討対象となる成分等の例:アルカロイドやホルモン様作用成分のうち、一定以上の量の摂取により健康被害が生じるおそれのある成分等)。特定成分を含む食品で健康被害が発生した場合、行政へ被害情報の届出が義務化される。2020年6月までに施行される。 解説 近年、サプリメントなどのいわゆる健康食品の健康被害の相談が増加していることを受けて新設された。これまで健康被害情報の収集は制度化されておらず、被害の発生・拡大の防止の面に課題があった。今後、『特別の注意を必要とする成分』について厚生労働省が決めて、その成分を含有する食品の製造者や販売者は、健康被害が起きた際に保健所への届出が義務付けられる。

国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備

関係する業種 容器等製造事業者、容器等販売事業者、食品製造・販売事業者 ひとことで言うと 規格が定められていない原材料を使用した器具・容器包装の販売等の禁止等を行われ、安全が担保されたもののみが使用できることになる。2020年6月までに施行される。 解説 食品用の器具や容器包装は、これまで禁止された物質でなければどのようなものでも使用できる『ネガティブリスト制度』で運用されていた。このため、海外で使用禁止された材質があっても、直ちに制限をかけることができなかったが、改正によって安全性が担保されたもののみ使用できることになり、それ以外は原則使用禁止とする『ポジティブリスト制度』が導入される。

営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設

関係する業種 今後、政省令改正で営業許可業種の区分や施設基準についての実態に応じた具体的な見直しが行われる。 ひとことで言うと HACCPの制度化に伴い、営業許可の対象業種以外の事業者の所在等を把握するため、届出制度を創設された。実態に応じた営業許可業種への見直しや、現行の営業許可業種(政令で定める34業種)以外の事業者の届出制の創設を行う。 解説 現行の政令で定められている許可業種は、“飲食店営業”“食肉販売業”など34種で、それ以外にも自治体ごとに“漬物製造業”など独自に定めた業種がある。コンビニエンスストアなどの場合、1施設で飲食店営業、食肉販売業、乳類販売業、魚介類販売業、菓子製造業と複数の営業許可申請を行うケースがあり、これらも含めて見直し、営業の実態に応じた制度に見直される。

食品リコール情報の報告制度の創設

関係する業種 食品関連事業者 ひとことで言うと 営業者が自主回収を行う場合に、自治体へ報告する仕組みの構築を行う。厚生労働省による情報収集システムの構築などを経て、2021年6月までに施行される。 解説 これまで食品の自主回収の情報公開については法律上の規定がなく、自治体により条例での取り組みはバラバラであった。このため、消費者は食品事故の全容を把握することができなかった。改正によって、今後は食品衛生法に違反または違反のおそれがある食品のリコールについて、国のデータベースシステムに事業者がリコール情報を入力して届出を行うことになる。国が事故情報を一元管理し消費者に情報提供することで、健康被害の発生、拡大を防止する狙いがある。

今後の動きに注意

改正された項目は今後、1~3年以内に施行される。現時点では決まっていないことも多く、常に情報を追っていくことが必要となりそうだ。しかし、これまで以上に食の安全のレベルアップに取り組むことが求められていることは間違いない。厚生労働省や所属する業界団体からの情報発信に注意して、理解を進めてほしい。 協力:一般社団法人FOOD COMMUNICATION COMPASS代表 森田満樹
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