株式会社ワン・ダイニング取材日 2019年3月1日

食べ放題の焼肉・しゃぶしゃぶ業態を120店展開。
経営危機から飛躍した要因は、品質向上と従業員教育の原点回帰です。

利用サービス 受発注(発注)規格書(買い手) | エリア 近畿地方 | 
事業内容 飲食店の経営
株式会社ワン・ダイニング

関西エリアを中心に、焼肉やしゃぶしゃぶ、鶏料理の食べ放題業態120店舗以上を運営する株式会社ワン・ダイニング様。2018年にはアルバイトのモチベーションを高める経営が評価されて、外食アワードを受賞しました。かつてはBSE問題で債務超過に陥るも、店舗運営のあり方を見つめなおすことで起死回生を遂げたそうです。代表取締役社長 高橋氏に、改革の道のりとこれからを伺いました。

ココがPOINT!

ウリは「価格」でしかなかった。反省から育てたブランド価値

― 120店舗以上展開されています。すべて食べ放題業態ですか?

代表取締役社長 高橋淳氏(以下、高橋社長):焼肉業態『ワンカルビ』を中心に、和豚しゃぶしゃぶ、とり焼き・とり鍋など、122店舗(2019年3月現在)すべてが食べ放題を導入しています。また、全店舗で貫いているのが、スタッフがテーブルで注文をお伺いするテーブルオーダーバイキングです。長年、大阪を中心とした関西と九州エリアで事業展開していましたが、2018年に関東進出を果たし、2019年も出店を控えています。

弊社の前身は、食肉小売店を運営するダイリキ株式会社が1993年に始めた、外食事業です。当時は居酒屋感覚で楽しめる焼肉レストラン業態で評判を得て、急速に出店が進みました。ところが、2000年代初頭にBSE問題が発生すると、売上が激減し、債務超過に陥ってしまったのです。経営再建の試行錯誤の末に2006年にはじめたのが、食べ放題でした。

代表取締役社長 高橋淳様代表取締役社長 高橋淳様

ワン・ダイニング

― なぜ、食べ放題を選択したのでしょうか。

高橋社長:食べ放題は定額でいくらでも食べられます。お客様にとってこんないい仕組みはありません。しかし、失敗したら後がない、いわば飲食店の最終手段です。絶対に成功させなければならない危機感を持ったうえでの方向転換で、ダメなら外食を辞めようという覚悟でした。こう考えた背景には、出店拡大を急ぐあまりにおかしてしまった過ちへの反省があります。

当時はあらゆる面で効率を優先し、アウトソーシングでカットした冷凍肉をデリバリーするオペレーションにしていました。現場は解凍して皿に並べるだけなので特別な技術はいらず、低価格で提供できます。

しかし、これでは他社の焼肉店とまったく同じことをしているだけです。肉屋直営の強みである品質や技術といったこだわりを、我々は一度、捨ててしまいました。その結果BSEで打撃を受けてお客様が減ったことで、ただ安い価格にしか魅力を感じていなかったのだと痛感したのです。ブランド本来の価値とは何か、肉屋の焼肉店はどうあるべきか、いま一度、原点に立ち返るべきだと考えました。

非効率が価値を高める。“オンステージ”と“気づく力”

― どのような改革に取り組まれましたか?

高橋社長:肉にこだわる原点に回帰し、アウトソーシングをやめました。肉を店内加工するには新たな調理機材や技術育成といった、手間もコストもかかります。しかし、この非効率こそが、我々のブランドに独自の価値を与えるのだという意識を、社員・アルバイトに浸透させていきました。

弊社では、お客様が接する部分を“オンステージ”、それ以外の部分を“オフステージ”と考えます。オンステージにおいては、非効率でも徹底的に手間をかけることが、価値を感じていただく要素になります。

インキュベーションセンター

インキュベーションセンター研修施設『インキュベーションセンター』

従業員の接客や技術育成は、まさに時間もコストもかけて行うべきです。肉は部位によって美味しい厚みがミリ単位で変わります。また、2時間制の食べ放題という、限られた時間では、いかに手早く商品を提供できるかが勝負です。ですから、店舗の社員は半年に1度、肉のカット検定で正確性とスピードをはかっています。

こうした技術やサービスのブラッシュアップのため、インキュベーションセンターという研修施設を本社ビルに置きました。実店舗と同規模のホールやキッチンが備わっています。従業員は新入社員やブロック長といったステージごとに、11段階にわかれて研修プログラムを受け、それぞれスキルの向上を目指すのです。

― 御社の特徴でもあるテーブルオーダーバイキングは、いわばオンステージの最前線ですね。

高橋社長:一般的な食べ放題のように、お客様が食材を取るために席を立ったりすると、ご家族やお連れ様とのコミュニケーションが途切れてしまいます。大切な方との最良の2時間をお過ごしいただくため、弊社ではオーダーも提供も、スタッフがテーブルまで伺います。

サービス業は“足し算ではなく掛け算”だといわれることがあります。テーブルオーダーバイキングは、スタッフとお客様との接点が多いぶん、サービスのクオリティで付加価値を高めることができます。一方で、ひとつでもゼロやマイナスがつけば、すべてのサービスが台無しになってしまうリスクもあります。

― 接客のクオリティを保つための工夫はありますか?

高橋社長:サービスの根幹は人でしかありません。弊社では、「採用・育成・定着」を人事戦略の柱として捉えています。中でも採用は大事です。弊社の理念に共感性の高い人財で店舗の人員体制を整えないことには、本当の意味でのサービスはできません。

そのために、社員もアルバイトも、内部者からの採用を積極的に行っています。店舗社員の約6割はアルバイトからの登用です。また、今いるアルバイトのスタッフが、ワン・ダイニングに合いそうだと思う友達や知り合いを連れてきてくれます。弊社はアルバイトでも主体性をもって店舗運営に関わるため、単純にお金さえ稼げればいいという感覚では、価値観があわないでしょう。しかし、インナー採用なら基本的なミスマッチは起こりません。その上で人財育成に取り組みますので、実際、定着率も約9割を保っています。

育成に際し大切にしているのは“気づく力”です。お客様の様子だけでなく仲間のちょっとした変化にもアンテナを張っていないと、次を予測した行動がとれません。そこで、店舗では“気づきメモ”というものを使っています。「こんな工夫でお客様に喜ばれた」「〇〇さんの掃除はいつも隅々まで行き届いていてすごい」といった発見を手書きのメモにし、ボードに貼り出す取り組みです。

毎月、全店舗あわせて2万枚以上のメモが集まり、その中でも優秀な気づきを、社内報で紹介しています。チェーン店の最大の強みはノウハウの共有にあります。良いことも悪いことも、一人ひとりが気づく力を高め、共有することが、ひいては会社の生産性向上、魅力向上につながります。いわば、一枚のメモから会社の発展につながるストーリーが描かれるのです。

企業発展を支える“オフステージ”の効率化とブラッシュアップ

― “オフステージ”で取り組んでいることはありますか?

高橋社長:オンステージにかける手間ひまを吸収するため、オフステージでは逆に、時間もコストも抑えることがテーマになります。たとえば、食材の発注や原価管理は『BtoBプラットフォーム 受発注』で行い、規格書の情報を『BtoBプラットフォーム 規格書』で回収するといった、システムの導入による効率化もそのひとつです。店舗価値の向上には、オフステージとオンステージどちらの強化も必要です。

― 今後の展望をお聞かせください。

高橋社長:焼肉や食べ放題自体は目新しいものではありません。我々がフランチャイズ化せず、セントラルキッチンも持たないのは、それがワン・ダイニングの強みであり、他に真似のできない部分だからです。

多店舗展開は進めていきますが、120店舗を超え、今後は生産性向上だけでなく、管理レベルの向上もテーマにしていく必要があると考えています。

食の安全・安心管理も標準化し、レベルを高めていかなければならないでしょう。食品衛生法の改正でHACCPの制度化が決まっています。今から準備を進めておかなければ、実際施行となった際に即座に対応することができません。そのための土台づくりを進めています。

人口も減り人手不足も解消しないこれからの世の中で重要なのは、お客様から選ばれ、従業員からも選ばれる店舗であることです。ただ美味しいだけでなく、コンプライアンスを強化することでお客様にも従業員にも責任を果たす。将来生き残るのは、そんな企業だと思っています。

実務担当者に聞きました
改正食品衛生法に先駆けて自治体認証のHACCP取得を目指します

営業本部 衛生安全推進 ご担当者様:飲食店にとって、安全・安心は何より重要なテーマです。中でも焼肉業態は、生肉を提供して調理をお客様にお任せするため、他業態よりも食中毒のリスクをはらんでいます。お箸やトングの使い分けを店内に案内表示するだけでなく、スタッフのメニュー説明時にも伝えています。さらに、生肉をお箸で扱われているのを見かけた際は、お声がけもします。

また、店舗ではお客様からのアレルギーのお問い合わせに対応できるよう、アレルギー一覧表を用意しています。ただ、食材の変更や、メーカーの仕様変更など情報はいつ更新されるかわかりません。そこで、メニューのアレルギー情報は本部が『BtoBプラットフォーム 規格書』と『メニュー管理』のシステムで一括管理しています。そこから特定原材料等27品目を抽出して一覧表を毎日作成し、店舗は毎日印刷するルールを徹底することで、更新ミスを防いでいます。人の手を介さずシステムを使うことで、転記ミスの対策にもなります。また、当社では5000品のメニューを年4回変更しています。『メニュー管理』機能でレシピを一括管理すれば、改廃が多くてもストックしやすく、調理工程を簡単に店舗へ共有できると思います。

衛生面では、社外監査機関が食材の検査や従業員の手指の菌検査・検体検査などを2ヶ月毎に実施しています。さらに、社内の衛生安全推進担当が3ヶ月に1度、全店舗の清掃状況や食材管理状況など、約100項目をチェックし、衛生強化に取り組んでいます。

監査や研修の際に心がけているのは、「なぜ必要なのか」、「なぜしてはいけないのか」の「なぜ」を明確にすることです。ただ「こうしなさい」と言われても、理由がわからなければ人は動きません。店舗の要は人ですから、現場の士気を高め、いかにやる気になっていただくかを考えています。

そこで当社は、HACCP認証の取得を目指しています。2020年に施行される改正食品衛生法では、HACCP認証が義務化されるわけではありません。しかし認証されれば企業としてお客様に安全・安心をアピールできるので、各店舗で自治体が設けている食品衛生の自主管理認証制度を取得する挑戦をしています。すでに2018年には東京第1号店である花小金井店が、都の「食品衛生マイスター」を取得しました。今後は都内に出店する店舗はすべてこの認証取得を目指す予定ですし、関西の店舗でも各自治体の取得を検討しています。外部機関の認証制度に取り組むことで、社内では一般衛生管理の意識が高まりますし、取得すれば自信にもつながります。その土台をつくった上で“HACCPに対応できる店舗”にしていければと考えています。

営業本部 衛生安全推進 ご担当者様営業本部 衛生安全推進 ご担当者様

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株式会社ワン・ダイニング

設立2016年11月(創業1993年)
事業内容飲食店の経営
代表者代表取締役社長 高橋 淳
本社所在地大阪市西区新町 1-27-9
企業サイトhttp://www.1dining.co.jp/
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