建設業の課題を乗り越える DXのトレンドと求められる視点を徹底解説

本記事では、建設業とIT企業が連携して取り組みを進めるなかで、具体的にどのような視点を持つべきなのか、北海道大学工学研究院土木工学部門 高野伸栄 氏のお話をもとに紹介します。

いま、資材高騰・人手不足などさまざまな課題を抱えている建設業界。その課題解決策として注目されているのがDXへの取り組みです。建設DXを進め、業界全体が進化を遂げて生産性向上を果たすためには、建設業界とIT業界が互いに強固なタッグを組んで進めていく必要があるといえます。
 
そのなかでは、建設業のうちとくに土木事業が深層において抱える次のような特有の事情もあわせて理解を深める必要があります。

  • 自然環境と対峙して施工を進めるなかでの不確定要素の多さ
  • 大量生産の工場製品などを用いることが困難だという考え方
  • 地域の社会インフラの守り手として、小規模事業者も地域密着で生き残っていく必要性
本記事では、建設業とIT企業が連携して取り組みを進めるなかで、具体的にどのような視点を持つべきなのか、北海道大学工学研究院土木工学部門 高野伸栄 氏のお話をもとに紹介します。

建設業が直面している資材高騰と人材不足

建設業を巡る現状について、高野氏は次のように指摘します。
 
「人手不足とコスト高騰によって、建設業が『経済社会を支える』という役割を果たせない状況に陥っています」
 
工事費高騰によって工期延期や規模縮小を余儀なくされる事態も生じているとし、一例として札幌駅前再開発見直しのニュースを紹介しました。


出典:2023年8月29日北海道新聞朝刊 全道遅番 総合1頁
 
建設資材価格指数の動向は、新型コロナウイルス感染症拡大の頃である2020年2月を境におよそ1.5倍弱にまで上昇していると語りました。
 
「コロナ禍以降、新築住宅需要の増加によってウッドショック(木材価格高騰)、アイアンショック(鉄価格高騰)が起こりました。さらに円安の進行や、ウクライナ戦争の影響で木材が枯渇してしまうといった数々の要因から、2020年以降における変動幅が急激に大きくなっています」


出典:国交省資料
 
そして、資材高騰と同時に労務単価の上昇も起こっています。2011年の東日本震災以降、復興需要や政権交代による建設需要の高まりで「労務単価は右肩上がりに上昇している」と高野氏は続けます。


出典:国交省資料

「資材高騰および人件費高騰、これらの“合わせ技”で建設コスト上昇に直面しているのがいまの状況です。これに対して何らかの策を講じなければ、『経済社会を支える』という役割を果たせなくなってしまいます。建設業は、住宅、公園、オフィス、農地など人々が生活・産業を進める場を構築する役割を担っています。しかし、『高い、遅い、いつできるかわからない(不確実)』といった状況が、いま実際に多々起きてしまっているのは非常にまずいと考えています。社会基盤施設を整備する建設業のあり方として目指すべきは『安い、早い、信頼できる』です。人口減少も続くなか、人々の信頼を勝ち得るように業界全体が進化し、生産性向上を実現することが必須です。そうした生産性向上に向けた手段こそが、DXです」

i-ConstructionやBIM / CIMの推進状況と課題

では、建設DXの推進にどのように取り組むべきか。具体的な事例を挙げながら現状を解説します。

i-ConstructionやBIM / CIMの推進状況

いま、さまざまな建設生産システムプロセスにおいて i-Constructionが導入されつつあり、2023年度から国の事業では主要プロセスで3次元データの活用が求められるようになっています。しかし、導入の実験段階であるのが現状です。
 
こうした3次元データ活用の取り組みとして、高野氏は3社の施工例を紹介しました。
 
「株式会社堀口組は、国道工事において3次元データやIoT活用によるICT施工を実施しました。従来技術に比べ、切土掘削や法面成形にかかる施工日数を26%削減できたとのことです」


出典:「インフラDX大賞」受賞2団体の報告会を開催! p4」
 
「二つ目は、宮坂建設工業株式会社の事例です。河川工事における生産性向上を目指して、日本ではあまり用いられていない定置式水平ジブクレーンを導入、CIMを用いて設置箇所、作業範囲を検討し、資材運搬の効率化を実現しました。そして、施工管理アプリも導入することで現場管理の効率化とリアルタイム共有、書類作成の簡素化が図ったといいます」


出典:「インフラDX大賞」受賞2団体の報告会を開催! p5
 
「3つ目は、北土建設株式会社の事例です。3次元起工測量、ICT建機による施工、モバイル端末による出来形測定、3次元データ納品まで、すべての工程において3次元データ化したICT技術を用いることで、生産性向上につながりました。 また、重機との接近機会を削減することで安全性の向上も実現しました」 



このような先進的な取り組みは、公共工事入札時の「総合評価方式」で「新たな技術を採り入れ、生産性向上を図っている優れた企業」という観点で加点対象になるといいます。
 
「従来、土木工事の現場においては地中に潜って調査・測量をしたり、施工、維持管理に取り組んだりする作業が必須でした。しかし、すべてのプロセスを3次元データで迅速に可視化できるようになれば、生産性向上の観点から素晴らしいことだといえます。
 
そこで、データをどう活用するかがポイントです。日本国内には、戦後の公共事業によって作られた社会基盤施設が数多くありますが、過去のデータも遡りながら精緻な3次元データ化を図ることが理想です。その実現には、施工箇所に関する正確なデータ更新・蓄積がポイントとなるでしょう」」と高野氏は語りました。
 
しかしながら、BIM/CIMが公共工事に用いられるようになったのはここ数年のことのため、いますぐに3次元データのフル活用で維持管理プロセスに至るまで生産性を向上させるのは、難しい状況であるのも事実です。
 
そうした中、国交省は2023年度、直轄工事においてBIM/CIMを本格導入すると発表しました。
『義務項目』と『推奨項目』が設定され、『義務』として3次元で詳細設計に取り組んでいる会社は、工事段階でも3次元モデルを活用することを目標とされています。


出典:令和5年度BIM/CIM原則適用について p.3

遠隔臨場の推進状況

続いて高野氏は、もう一つの先進的な取り組みとして「遠隔臨場」の推進状況について次のように説明しました。
 
「コロナ禍の影響から、遠隔臨場が推進されました。これは、役所が施工箇所の検査を実施する際に、現場へ足を運ぶことなくWebカメラなどで検査を進めることです。技術検査、工事検査については令和5年度から遠隔臨場で実施することになっています。
 
そして、役所に限らず、ゼネコンも同様です。たとえば現場代理人が、作業員の相談に乗るなどの目的で現場を一つひとつ回って歩かなくても、遠隔臨場で現場チェックを実施できるようになっています。
 
遠隔臨場の導入によって移動時間や、ガソリン代などの移動費も削減できるので、業務効率化を図るうえで有効な手法だといえます」

浸透しているとは言い難い

ただし、ここまで紹介したような先進的な取り組みは、「決して浸透しているとは言い難い状況だ」と高野氏は指摘します。
 
「ICT活用に積極的な会社へのインセンティブ(入札時の加点)を紹介しましたが、ICTを採り入れられない企業は淘汰されても良いというわけでは決してありません。それが、他の業界とは異なる建設業界の難しい側面です。他業界のように低コスト化を図れば市場競争に打ち勝てるか、というと一筋縄ではいかないのが公共事業です」
 
実際に、ICT活用は、入札前には問わず、落札後に落札者の希望に応じて、導入がなされるケースも多く存在しているのが現状です。

こうした状況に対し、高野氏は「ICT対応可能な施工者ばかりではなく、ICT化の浸透は道半ばの状況にあるといえます。直接、企業の生産性向上や、競争力向上につながっていないでしょう」と建設業の現状を語った。

建設事業(土木事業)の深層

「公共事業においては、低コスト化に成功した企業が競争優位、とは言い切れない」「ICT活用、DX推進はまだ道半ばの状況」という2つのポイントを指摘した高野氏。ここからは、建設DXを進めて生産性向上を目指すうえでは、「建設業界特有の事情に理解が必要である」という点について、詳しく解説します。

技能者と技術者の対比をいかに縮められるか

「技能者(作業を進める人)と技術者(指示・監督する人)の対比を縮めていくことが、建設DXの一つの指標だと考えています」と高野氏は語った。
 
令和4年度のデータによると、「監督1人に対して、技能者8人」という対比になっており、25年前(平成9年)の「1対11」と比較すると対比は縮まってきています。
 
「たとえば、トンネル工事の現場などを訪ねると、監督がいて、ロボットや機械がいて、それをサポートする技能者がいて、大規模な現場であるにもかかわらず少数で取り組んでいる様子も見受けられます。
 
ロボットや機械を現場へ導入することで、配置する人員をより削減することは、DXを用いて業界が進化を遂げた、すなわち生産性向上を果たしたと示す、一つの指標になり得るのではないかと考えています」


出典:国交省資料

現地受注生産が基本、プレキャストを使えない

次に高野氏は「公共事業においては、現地受注生産が基本で、プレキャスト(大量生産する工場製品)を使えない発想が根強い点も、特有の事情の一つです」と述べました。つまり、施工場所によって一つひとつ取り組みが異なり、業務標準化が難しいという性質です。
 
「公共事業のマインドとは『要求性能を満たす、ムダのない最適設計』です。たとえば、長さ12mの橋を建設したい場合に、15mの出来合いの建造物を持ってきても長さが合いません。よって、すべてをオーダーメイドで作る必要があるのです。現地受注生産、現地で組み立てが基本です。プレキャストを組み合わせて施工するよう、業界もシフトしつつはありますが、そもそも公共工事に取り組む際のマインドを業界全体が変えなくてはならないと考えています」

建設業が抱える不確定要素

続いて高野氏は、「建設業が抱える不確定要素」について、北海道新幹線札幌延伸工事の例を挙げながら解説しました。

「2030年度末に作られる予定の北海道新幹線の札幌延伸工事は、数年単位で開業が遅れると先般報じられました。これは、『建設業の不確実性』によるものです。たとえば、掘削していたら大きな石が出てきて工事が遅れるといった不測の事態も多々生じてしまうのです。ほかにも、1988年に開通した青函トンネルの例でもこのような事態に直面していました。地質・地盤の不確実性、地殻変動・地震、経年劣化、資材や人材確保の不確実性など、土木事業環境は不確定要素が満載です。

現在、ICT化によって精緻な3次元モデル構築が試みられているなか、不確定要素も非常に多く含んでいるのが土木事業環境だといえます。よって、その不確定要素を考慮したうえで、有効性とコストを判断しながらICT化に取り組む必要があります」

「建設業は社会的共通資本」という視点

そして、もう一つ重要な視点は、「建設業は社会的共通資本」だと高野氏は続けます。

「土木工事は、企業ランクにより、参入できる工事規模が分かれているという実態があります。

『企業の生産性を高める』『市場競争における優位性を高める』『進化を遂げた企業が生き残る』という観点でいえば、より生産性の高い大手が、地方の小さな公共工事にも参入することになります。

しかし、地域を支える建設業に期待される役割とは、決して生産性だけではありません。災害時の応急対応を支えることも重要です。生産性は必ずしも高くないけれど、地域密着で地域インフラを支えてくれる企業も、なくてはならない存在なのです」

そうした中、『地域密着型の小規模事業者を、今後進化させていくには』という観点も重要になると高野氏は続ける。


出典:国交省資料

「一つの自治体のなかに、建設業者がひとつしかない地域もあります。『地域内に建設業者がいてくれなくては困る。その一方で、人手不足や資材高騰、労務単価高騰といった課題を克服するために、生産性も高めないと困る』このようなジレンマを抱えているのがいまの土木業界だといえるのです」

建設業のDXを実現するための3つの柱とは

高野氏は、建設DX推進のためには人材育成も重要だと強調しました。

人材育成

「ICT化をより進めるには、ICTスキルを持った人材を育てる必要があります。しかし現状、BIM/CIM教育を行っている大学・高専は15%程度しかなく、CADに関する学習が多いのといえます。3次元データを作る教育はほとんど行われていないと考えられ、指導可能な教員も確保できていないのも大きな問題点です。大学の教授たちは『企業教育でBIM/CIMに関するスキルを習得すべき』『独学で』などと無責任に考えている人も多いのが現状だと捉えています。よって、建設DX実現には、教育機関に向けて『ITをより積極的に学ぶように』と要望していく必要もあるのではないでしょうか」

入札プロセスの見直し

そして、公共工事の入札プロセスの課題点についても次のように指摘しました。
 
「また、公共工事の入札プロセスについても課題があります。ICT導入企業は総合評価方式で加点されるといっても、その仕組みも前述の通り不完全であることが現状です。先述したとおり、公共事業は、個々の企業の競争による優勝劣敗が善とはならない市場構造です。地域を支える小規模な建設事業者の維持も必要だからです。そのような課題も理解したうえで、DX推進環境をいかに増やしていくかという視点が重要です」

「3つの柱」

続いて高野氏は、建設業のDXを実現するための「3つの柱」を紹介しました。
 
  • 建設現場を最先端の工場へ
  • 最先端のサプライチェーンマネジメントを導入
  • 『キセイ(規制/既成概念)』の打破と、継続的な『カイゼン』

標準工法の拡張

建設DXを実現するには、様々な障壁があるのも事実です。
 
そうした中、予定価格積算の根拠となる『標準工法』にICTを用いた新たな取り組みが導入されることが、建設DXの推進につながるのではないかと高野氏は考えています。これは北海道に限定したケースではなく、公共工事の発注体系のなかで生産性を高めていくには、新たな標準工法を国から、都道府県、市町村にまで浸透させていく必要があるといえるでしょう。
 
「『一品受注生産』の呪縛から逃れ、『工場としての建設現場を作り上げる』という大きな発想の転換が、DX推進のうえでは必要だといえます」と高野氏は業界全体のマインドセットが重要になると指摘しました。

まとめ

本記事では、北海道大学工学研究院土木工学部門 高野伸栄 氏のお話をもとに、建設業界の課題、現状打破に向けたさまざまな先鋭的な取り組みを紹介するとともに、今後、業界全体に建設DXが浸透していくために向き合うべき課題を解説しました。
 
高野氏は「キセイ(規制/既成概念)」の打破と、継続的な「カイゼン」という視点も必要だと強調していましたが、実際に「建設業の現状を変えていこう」「自社でも何かできることに取り組んでいこう」と考えても、i-Constructionや、3次元データの導入には初期投資の面で高いハードルを感じる企業も少なくないはずです。
 
しかし、「キセイ」を打破し、「カイゼン」を継続できる取り組みは、他にもあります。そのひとつが、脱・書類、すなわちペーパーレス化です。建設業は、現場業務に付随して各種申請書、報告書、稟議書などまだまだ紙の取り扱いが多いのが現状です。それらをITツール導入によってデジタル化することで、Web上でスピーディーに記載・承認できるようになり、現場と事務所の移動時間・コストが削減され、業務効率化の一助となります。
 
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