【弁護士監修】建設業法で電子契約は適法。メリットや事例を解説

電子契約の概要や3つの要件、法改正、建設業が電子契約を導入するメリットや注意点、事例をわかりやすく解説します。

建設業において電子契約の導入を検討している方の中には「請負契約などの契約書の電子化は、法的に問題がないのだろうか?」と疑問に思う方もいるでしょう。結論から言うと、建設業法に適合した電子契約であれば、契約書の電子化は認められていて、公共工事などでも導入が進んでいます。

この記事では、電子契約の概要や3つの要件、法改正、建設業が電子契約を導入するメリットや注意点、事例をわかりやすく解説します。


電子契約とは

電子契約とは、紙の契約書に代わって電子データに電子署名を付与して契約を締結することです。

従来、契約書の作成には紙での印刷、郵送、返送、ファイリングなど一連の作業が必要でした。しかし、電子契約であれば、契約内容を電子化してインターネット上でやり取りし、クラウドストレージや企業のサーバーに保管しておくことができます。

紙で運用するよりも労力やコストがかからない点が大きなメリットで、昨今では業種を問わず広く導入されています。

電子契約

紙の契約と電子契約の比較

紙の契約と電子契約には、さまざまな違いがあります。次の表で、それぞれの特徴を比較してみましょう。


紙の契約 電子契約
署名方法 押印、自筆による署名 電子印鑑、電子署名
法的効力が発生する日付の証明方法 日付の記入、確定日付の取得 日付・時刻が記録されたタイムスタンプの付与
受け渡し方法 郵送、手渡し インターネット上で電子データのやり取り
保管場所 キャビネットや保管庫 クラウドストレージ、サーバー

物理的な紙の取り扱いが必要となる従来の方式では、オフィスへ出社しなければ契約書に関する業務は対応できませんでした。しかし、電子契約はインターネットに接続していればどこからでも送受信や保管ができ、自宅や外出先、現場からでも確認が可能となります。

電子契約は建設業法に適している

建設業でも、建設業法に適合した電子契約の利用は法的に認められています。つまり、電子化された契約書には法的効力があるということです。

しかし「電子契約/電子化」の意味が定かではなく、「メール添付による受発注は、建設業法違反になるのだろうか?」と疑問に思う人もいるかもしれません。それに対する結論を述べると、メール添付の場合は建設業法第19条の「署名又は記名押印をして相互に交付」に該当しないため、建設業法違反となってしまいます。

建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

引用:建設業法|e-Gov法令検索

それでは、建設業においてどのような要件で電子契約が適法といえるのでしょうか。

電子契約に関しては、インターネットの普及を受け、平成13年4月の建設業法改正で追加された第19条3項によって、「契約の相手方の承諾」や「技術的要件」を満たせば利用できるようになっています。

建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって、当該各項の規定による措置に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講ずることができる。この場合において、当該国土交通省令で定める措置を講じた者は、当該各項の規定による措置を講じたものとみなす。

引用:建設業法|e-Gov法令検索

建設業の電子契約で求められる要件については、次章で詳しく解説します。

電子化できる契約書の例

建設業で電子化できる契約書の例は、次のとおりです。

  • 工事請負契約書
  • 工事発注契約書
  • 売買契約書
  • 賃貸契約書
  • 保証契約書

契約書の電子化が進むと、業務効率化やコスト削減などさまざまなメリットが得られます。

【国交省によるガイドライン】
建設業の電子契約で求められる3つの要件

平成13年4月の建設業法改正によって、建設業でも電子契約ができるようになりました。国土交通省はガイドライン※を策定し、電子契約を行うために以下の2つの技術的基準を定めています。

  • 見読性
  • 原本性

さらに、2020年には新たな技術的基準として、以下の要件も加えられました。現在では、建設業の電子契約において「3つの要件」が必要となっています。

  • 本人性

これら「3つの要件」の概要は、次のとおりです。

見読性 契約書の情報が必要な時に、速やかに閲覧・印刷できるようにシステムを整備しておくこと
原本性 契約書が「原本」で、改ざんされていないと証明できる措置を講じていること
本人性 契約の相手方が「本人(なりすましではない)」と確認できる措置を講じていること

※正式名称:建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する「技術的基準」に係るガイドライン

建設業の電子契約にまつわる法改正と
国内動向

ここでは、前章で解説した「国交省によるガイドライン」によって技術的基準が定められた経緯を改めて整理しつつ、電子契約にまつわる建設業法改正や国内動向を詳しく見ていきましょう。

2001年の建設業法改正

前述のように2001年(平成13年)4月の建設業法改正により、第19条3項が追加されて電子契約が認められました。この改正によって「相手方の事前承諾」と「技術的要件(見読性、原本性)」を満たせば電子契約が利用できるようになりました。

2018年の「グレーゾーン解消制度」に基づく経済産業省による回答

建設業では2001年に電子契約が法的に認められました。しかし、技術的水準を満たした電子契約システムの選別が困難で電子契約は普及せず、紙での契約が利用され続けていました。

そこで、技術的水準を満たした電子契約システムの判断基準を明らかにするために、「グレーゾーン解消制度」が利用されました。

グレーゾーン解消制度とは、企業が新しく事業を始める際に、現行の規制が適用されるかどうかを事業者側から政府に対して事前に確認できる制度です。これにより、規制の範囲が不明確な場合でも、事業者は安心して新しい事業活動を行うことができます。

2018年、グレーゾーン解消制度を利用して電子契約システムを提供する企業が適法性を経済産業省に確認したところ、クラウド上での電子契約が合法だと認められました。

2019年には、株式会社インフォマートが提供する「BtoBプラットフォーム 契約書」も経済産業省により適法性が確認されています。

参考:『BtoBプラットフォーム 契約書』がグレーゾーン解消制度で適法性を確認~工事請負契約の電子化が明確化されました~|infomart

2020年の建設業法施行規則の改正、2022年の本人確認方法の明確化

2020年に建設業法施行規則が改正され、前述のように電子契約の技術的基準である「本人性の確認」が新たに追加されました。

電子契約における「本人性の確認」とは、契約する相手が「本人である」と確認するための措置を講じていることを指します。つまり「身元確認」ともいえますが、その方法についてなかなか同意が得られずにいました。

そこで2022年、「グレーゾーン解消制度」を利用して以下の4つの方法が示されました。

  1. 当事者署名型電子署名: ID、パスワード、タイムスタンプに加えて、認証局が本人確認を行って発行した「電子証明書」を付与する方法
  2. 事業者署名型電子署名(2要素認証): 電子契約システムの利用登録(ID、パスワード)とタイムスタンプ、SMSによるパスコードの到達確認など、2要素認証で身元確認を行う方法
  3. 事業者署名型電子署名(1要素認証): 電子契約システムの利用登録(ID、パスワード)という、1要素によって身元確認を行って、タイムスタンプを付与する方法
  4. 電子捺印: 電子契約システムの利用登録(ID、パスワード)とタイムスタンプ、印影イメージ(会社名や名前、印影のスキャン画像などを入力・アップロードしたもの)を利用する方法

このように本人確認方法が明確化されたことで、電子印鑑や電子サインのような簡易的な機能の利用も、法的に認められるようになったのです。

参考:新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表|経済産業省

建設業で電子契約を導入するメリット

続いて、建設業で電子契約を導入するメリットを見ていきましょう。主に以下の3点が挙げられます。

契約業務の効率化

電子契約の導入によって、契約業務の効率化につながります。

紙の契約書でやり取りしている場合には、印刷や押印、郵送、返送など、さまざまな手間が必要です。建設業は現場に出向く機会が多く、担当者は押印や内容確認のためにわざわざ事務所に戻ってこなくてはなりません。また郵送や返送に時間もかかり、契約がスムーズに進まないケースも考えられます。発送後、配送トラブルや書き損じによる修正が発生すれば、さらに時間がかかるでしょう。

一方、電子契約を活用すると、インターネット上で契約業務をすべて完結できます。多くの手間が省かれ、契約締結まで迅速に進む点が大きなメリットだといえます。

収入印紙代や郵送費などのコスト削減

電子契約は、紙での契約よりもコストを削減できます。たとえば書面契約には、以下のコストが毎回必要です。

  • 収入印紙代…課税文書に貼付するための印紙購入費用
  • 印刷代…契約書の印刷にかかる紙やインク代
  • 郵送代…切手や宅配料金、封筒など梱包資材代
  • 人件費…契約書作成、発送、修正対応など紙での運用にかかる労力

収入印紙代について、たとえば建設工事請負契約書には、以下の収入印紙が必要になります。

  • 100万円を超え200万円以下…200円
  • 1千万円を超え5千万円以下…1万円
  • 1億円を超え5億円以下…6万円

しかし、電子契約であれば収入印紙代は必要ありません。システムの導入費用やランニングコストはかかるものの、印紙代が不要であることを考えると、長期的に見てコスト削減につながるといえるでしょう。

参考:建設工事請負契約書の印紙税の軽減措置|国税庁

コンプライアンスの強化

電子契約システムでは、契約書にアクセスできるアカウントを限定できるので、コンプライアンス強化につながるといえます。

また、タイプスタンプや電子証明書によって電子契約が改ざんされていないことを確認でき、書面の契約書よりもセキュリティを担保できる点もメリットです。

建設業で電子契約を導入する際の注意点

建設業で電子契約を導入する際の注意点について紹介します。ポイントは、次の2点です。

社内ワークフローを調整する必要がある

電子契約の導入時に、契約書業務に関する既存のワークフローを調整する必要があります。建設業ではITツールに苦手意識がある人も多く、「これまでの手順を変えたくない」と考える人が抵抗感を持つ可能性があるでしょう。

新たなツールが社内に浸透するまでに、時間を要するケースもあると想定されます。

取引先に説明する労力がかかる

取引先が電子契約を導入していない場合、説明の時間を設け、同意を得るための労力が必要です。自社内での理解を求める場合と同様に、ITツールに抵抗があり受け入れられにくい可能性も考えられます。

そこで、以下のように移行の目的やメリットを伝えて、理解を促しましょう。

  • 電子契約に切り替えることで、文書のやりとりにかかる時間を年間で◯時間節約できる
  • 契約業務にかかるコストを◯%削減できる
  • コンプライアンスを強化できる

建設業で契約書類を電子化した事例

ここからは、株式会社インフォマートが提供する「BtoBプラットフォーム TRADE」をはじめとするサービスを導入し、契約書類を電子化した事例を紹介します。

「BtoBプラットフォーム TRADE」は、建設業の法制度に対応した注文書・注文請書・請求書業務のデジタル化を推進できるツールです。ペーパーレス化が実現でき、業務の簡素化と効率化を後押しします。

契約から支払いまでデジタル化を推進|坪井工業株式会社

オフィスビル、商業ビル、大型施設の建築や、太陽光発電所の建設を中心に展開する「坪井工業株式会社」が、「BtoBプラットフォーム」を導入した事例です。

電子契約を活用し、契約から支払いまでのプロセスをデジタル化したことで、業務負担の軽減と残業時間の削減を実現しています。

この事例の詳しい内容については、以下のリンクからダウンロードできます。

建設業界の紙文化にメスを入れる、DXプロジェクトを推進

契約書類の電子化で作業時間が半減|日本工営都市空間株式会社

続いて、都市整備など日本の“まちづくり”を支える「日本工営都市空間株式会社」の事例です。

電子契約を導入したことで、発注業務の時間と書類を半減させることができました。毎日5時間かかっていた発注作業時間が大幅に削減され、社内承認から契約締結までのスピードが向上しています。

この事例の詳しい内容については、以下のリンクからダウンロードできます。

注文書を電子化し発注業務の時間と書類が半減

まとめ

本記事では、電子契約は建設業法で適法であることと、法制度に対応した契約書を作成するための要件、電子化のメリットや導入時の注意点、導入事例をお伝えしました。

法に則した電子契約書を作成するには、同じ建設業で既に多くの導入実績があり、適法性が認められた電子契約システムを選ぶと安心です。

株式会社インフォマートが提供する「BtoBプラットフォーム TRADE」なら、見積・契約・発注・納品・請求までを一気通貫でシステム化でき、業務効率化や残業削減に貢献できます。

建設業の電子契約についてさらに詳しい情報を知りたい方に向けて、無料のお役立ち資料も提供しています。以下よりダウンロードのうえ、ご活用ください。

BtoBプラットフォーム TRADE

監修者:秋野卓生

秋野弁護士弁護士(匠総合法律事務所 代表社員弁護士)
建設業者の皆様から、FAXやメールにPDF添付の方法による注文書・請書の交付は建設業法上認められるのか?という法律相談を多く受けてきました。FAXについては、建設業法19条の「署名又は記名押印をして相互に交付」には該当せず、メールにPDF添付の方法は、建設業法第19条第3項、同法施行規則第13条の2に相応する方法が定められていないので、認められません。グレーゾーン解消制度などで適法性が確認された電子契約サービスを活用することがおすすめです。
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