建設業DX実現のためのステップを実例で学ぶ “抵抗勢力”と向き合った田中組

本記事では、株式会社田中組 土木部 建設DX推進室 プロジェクトリーダー 高橋 佑介氏のお話をもとに、建設DX実現に向けた具体的なステップを紹介します。

いま、建設業界では建設コスト高騰・人手不足・生産性向上の対策のためにDX推進が重要なテーマとなっています。

そうした中、北海道で創業120年を超える総合建設業・株式会社田中組は、早くも2011年からICT施工の前段階である情報化施工に取り組み、2016年よりICT施工に着手しています。また、2022年には社内土木部にDX推進室を設置。2023年には日高自動車道工事において国土交通省 北海道開発局より「i-con奨励賞2023」を授与されるなど、建設DXを積極的に推進している企業です。

しかし、DX推進には「抵抗勢力」も多く、数々の障壁を乗り越えて現在があるといいます。

本記事では、株式会社田中組 土木部 建設DX推進室 プロジェクトリーダー 高橋 佑介 氏のお話をもとに、建設DX実現に向けた具体的なステップを紹介します。

建設業において喫緊の「人材」課題

「建設業においては人材確保が喫緊の課題である」と高橋氏は語ります。

「建設業就業者の高齢化が進行しています。全産業と比較して55歳以上の割合が多く、若者の割合が低いという状況から、人材確保と技術継承が課題です。10年後には大半が離職していくなか、技術継承および育成という2つの課題にいかに向き合っていくかが肝心です。どの建設関連企業も感じていることだと思いますが、これらの課題の解決には、生産性向上と担い手育成をするしかない状況です」

 

担い手確保・育成を進めるためには、労働環境の改善と意識改革も必要だと高橋氏は続けました。

「建設業に対しては、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)のイメージも根強く、若者に敬遠されている状況があります。私自身は入社10年目ですが、入社当時を振り返ると『朝早く、夜遅い』『休日日出勤が当たり前』『書類作成も多い』といった環境で、労働環境改善と意識改革が必要だと感じていました」

このような業界の状況を受け、国交省は生産性向上を目的として「i-Construction(現場を3次元管理していく取り組み)」を推進しています。施工の省力化、書類作成の削減など、生産性向上につながる施策です。

しかし、「3次元データを扱える人材が少ないことから、限られた現場でしかi-Constructionを活用できない実態があった」と高橋氏は語ります。そうした状況を打破するために、田中組土木部に2022年に設置されたのが、『建設DX推進室』です。

建設DXにおいて立ちはだかる「抵抗勢力」とは

DX実現に向けた4つのステップ

高橋氏が前章で紹介した田中組土木部の『建設DX推進室』は、次の4つの役割を担っています。

  • 現場業務のDX
  • 担い手確保
  • バックオフィス(3Dモデル作成)
  • 3D測量 


そして、次の4つのステップでDX実現を目指していると高橋氏は説明を続けます。

「『ステップ1』は、問題提起です。現場の問題を洗い出し、その解決につながるさまざまなITツールを検討したうえで試験導入・運用を進めていきました。

次に『ステップ2』では、さまざまなITツールを試験運用したなかで、自社にあったものだけを残して社内への浸透を図りました。

そして『ステップ3』では、新たなチャレンジとしてスタートアップとの連携にトライしました。他社との交流・意見交換を通して新たな技術や取り組みを学び、現場の業務効率化を積極的に推進していくことが目的です。

最後の『ステップ4』では、現場からのフィードバックを回収しながら、最終目標である『週休2日』と『完全残業ゼロ』を目指していきます」


具体的なDXの取り組みと立ちはだかった障壁

先述した4つのステップを踏まえ、田中組ではDXに向けて具体的に4つのことに取り組みました。

「はじめに取り組んだことは4つです。

 1つ目、現場データをクラウド保存できるようにしました。以前は図面や写真はNAS(ハードディスク)保存でしたが、クラウド保存に切り替えました。

 2つ目は、1人1台のiPad支給です。これは、打ち合わせや現場での図面閲覧用という目的です。

 3つ目は、チャットツールの導入です。弊社ではLINEWORKSを導入しました。

 4つ目は、SNSの開設です。建設業のイメージを改善し、担い手確保を目的としてYouTubeで動画配信をはじめました」



しかし、4つの取り組みには抵抗勢力の存在もあり、なかなかスムーズに浸透・定着しなかったといいます。それぞれの取り組みに対して具体的にどのような障壁があったか、対応策はいかにして進められたのでしょうか。高橋氏は、次のように説明します。

クラウド導入の失敗と対策


「従来は、現場関係者しか閲覧できなかったデータを全社員が見られるようになったので、その環境に抵抗がある人もおり、なかなか使ってもらえませんでした。また、土木現場においてネット環境が整わず、浸透に時間がかかった側面もありました。

そこで、対応策としてメリットを徹底に伝えるようにしました。『帰社しなければ見られなかったデータを、外出先からでも見られる』『他現場の先進的な取り組みを知れる』などです。説得の甲斐あって少しずつ使ってもらえるようになりました。

また接続環境については、衛星接続の『Starlink』を導入しました。これは、空が見えている場所であればどこでもインターネットができる新しいサービスです。

これらの対応策を経て、いまでは全社にクラウド保存が普及しました」

iPad導入の失敗と対策

iPad導入についても失敗があったと語る高橋氏。その理由と対応策について次のように述べました。

「いままで業務で使わなかったものを急に渡されても、どう使っていいかわからないという意見もあり、半年ほど箱に入ったままというケースも見られました。また、現場に持っていくと汚れるため使いたくないといった意見も出ました。

そこで対応策として、iPadを使う仕組みやルールを整備しました。『eYACHO』というiPadアプリを使って安全パトロールおよび社内検査報告書を行うようにしました。従来は、現場で記録した報告書を札幌に帰社し社内で閲覧、回覧、押印し、現場事務所に直接持っていくか郵送してファイリング・保管というフローでした。しかし『eYACHO』導入後は、現場で記録したものを即座に電子承認できるようになり、かなりの業務効率化になりました。

また、現場用のiPadケースも会社で選定して配布することで、 徐々に使ってもらえるようになりました。

そして、電子化への意識向上にも取り組みました。『社内ポイント制度』の導入です。これは、現場で減らした紙の枚数をポイントとして社員に還元、1ポイント=1円で電子マネーに交換できる仕組みです。LINEWORKSの掲示板で現場ごとの紙の印刷枚数をランキング形式で発表し、競争意識を煽る試みもしています。この取り組みはかなりの効果があり、年間400万円、紙代などのコスト削減につながりました」

チャットツール導入の失敗と対策

図面の共有やトラブル対応、報告などの現場でのコミュニケーションを円滑にするために、建設業でもチャットツールの導入は進んでいますが、「若年層は利用に慣れていても、社内の全員がそうとは限りません。『電話・メールで十分』という意見もあり、なかなか全員には使ってもらえませんでした」と高橋氏は語ります。

そうした中、社内連絡をチャットに集約し、LINEWORKSの掲示板機能を活用することで、チャットツールへのアクセス頻度を増やすようにしたところ、自然と活用が浸透していったといいます。新しいサービスを導入する際は、地道に利用し続けていってもらうことが重要です。

SNS運用での失敗と対策

「SNS運用は、開始当初には社内の理解を得られず、遊んでいるかのように見られてしまっていました。また、見切り発車で取り組みをスタートしたため、動画の配信内容にもばらつきが出ていました。

いまはまだ、フォロワー数も少なく試行錯誤中ではありますが、地道に取り組みを続けることで社内理解も進み、『建設業のイメージを変える』という主旨で配信内容を統一するようになりました。

またYouTubeだけでなくInstagramにも動画投稿を行っていて、中には2万回再生された動画もあるなど、徐々にコンテンツを見てもらえるようになってきています」

建設DXによる業務効率化の取り組みとその効果

田中組の建設DX実現に向けた取り組みは、前出の4項目だけに留まりません。業務効率化に向けて他にもさまざまな先進的な取り組みを導入しています。

VRの取り組みとその効果、移動時間

VRゴーグル活用によるメタバース会議の実施も取り組みの一つです。アバター参加型会議では、離れていてもまるで隣りにいるような感覚で打ち合わせに臨むことが可能です。

「導入の目的は、現場と会議場所間の移動時間削減、業務効率化です」と高橋氏は語りました。

「現場が北海道内各地に点在しているため、業務時間よりむしろ移動時間が長くなってしまいますが、メタバース会議の導入によって移動時間を削減でき、かなりの業務効率化になりました」


3次元測量の内製化とその効果

さらに田中組は、ICT活用工事の増加に伴い3次元測量を内製化し、ドローンも用いて取り組んでいます。その際、これらを内製化することによって、外注費を削減できたと高橋氏は説明します。

「2022年時点では、すべての3次元測量を外注していたため年間コストは1,200万円ほどでした。しかし翌年にはハンディ型レーザースキャナー導入で外注費半減、さらに今年度(2024年度)にはドローンも導入したことで、外注費ゼロを目指しています。

点群処理ソフトなども活用しながら、より身近に3Dデータを取り扱えるようになってきている状況です」

LiDARを使った取り組みとその効果

専用のツールの導入や開発だけではなく、従来のツールの活用も進めているといいます。

「iPhone ProやiPad Proには、『LiDAR』というセンサーが搭載されていて、3D測量に活用可能です。

たとえばiPad Proで鉄筋をスキャンすると3Dデータ化でき、ピッチなどを自動計測できます。

従来の配筋検査業務は、2〜3人で15〜20分程度かかっていましたが、LiDARを使うと1人で2〜3分程度で終わるようになり、大幅な業務効率化が実現しました」

建設ディレクター

「現場業務補助の目的で、建設ディレクターの職域も導入済みで、バックオフィス業務を担っています。

  • 図面修正
  • 写真整理
  • 書類作成
  • 3Dデータ作成

建設業は他産業と比較し長時間労働が多く、現場仕事も数多くあります。それらの一部でもバックオフィスで負担することで、現場の負担を減らしていきたいと考えています」

田中組アカデミー

田中組では、建設業で常態化している人手不足の解消への取り組みも行っています。「田中アカデミー」と呼ばれる社内教育の制度もその一つです。

「現場業務について、職員自ら説明した動画をアーカイブ配信し、人材育成につなげる試みです。職員は、自分の好きなタイミングで動画を視聴して、業務について学べます。たとえば『丁張の掛け方』といった若手社員向けの内容や、『実行予算の作成』といった役職者向けの内容もあります。

狙う効果として、仕事の説明動画を制作する取り組みを通してのプレゼン力向上が挙げられます。建設業では地域住民や発注者に対するプレゼン力も必要なためです。また、説明のために自分の業務の棚卸しを行うため、自身のキャリアにおける現在位置を知れるメリットもあります」

建設業の担い手確保に向けて

担い手確保に向けて、社外向けの取り組みにも果敢に挑戦しているといいます。

子ども向けイベントへの参加

「DX推進室では、建設業の魅力を発信する活動も行っています。現場の最先端技術を子ども向けにアレンジし、子どもたちに建設業の楽しさを知ってもらう取り組みです。

たとえば日頃の業務では現場の完成形をARで可視化し、施工検討を行うために活用していますが、この技術を活かして重機や機械をモチーフとしたゲームにアレンジし、子どもたちの人気を博しています。

また業務ではメタバース会議に使っているVR技術を、重機操作体験ゲームにアレンジするといった取り組みもあります」



SNS広告とその効果

「YouTube、Instagramへの動画投稿に留まらず、SNS広告にも取り組んでいます。テレビ広告と異なり、年齢・地域を選んで広告配信ができるため、リクルートにより適していると考えています。

施策の結果、広告からホームページへのアクセス数13,000回強を記録しました。

まだ実際には、広告経由での採用にはいたっていませんが、今後も取り組みの継続を考えているところです」

まとめ

田中組は今後の展望として、さらなるDX推進による効率化で現場業務の負担を軽減しながら、人手不足や長時間労働への対応を行っていくと考えているそうです。

建設業にはICT建機や3Dデータの活用、VR・AR技術、レーザースキャナー活用など、他産業から見ても先進的な取り組みが数多く存在していることが、田中組の事例からわかります。

また、DXを進めるうえでの「抵抗勢力」に対しては、田中組のように「導入後の反応を見たうえで対処していく」ことが効果的だと考えられます。ペーパーレス化の取り組みにインセンティブを付けて年間400万コスト削減、といったエピソードも挙げられました。

まだまだ、紙の使用が多い建設業。ICT建機や3Dデータ活用といった大きな初期投資が必要な話に限らず、日常業務に身近な「紙」を「デジタル」に置き換えることで、生産性向上・コスト削減の一助となり得ます。

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