令和6年6月成立の改正建設業法。法務視点から対策の留意点を解説

本記事では、令和6年6月に成立した改正建設業法について、秋野 卓生弁護士に法務的視点から対策の留意点を解説いただきます。

令和6年6月7日、改正建設業法が国会で成立しました。その背景には「建設業の2024年問題」があり、「高賃金の実現」「生産性の向上」「働き方改革の実現」が趣旨となっています。改正法は、令和6年6月7日から1年半を超えるまでの間に施行となります。今後、建設関連企業は日々の業務の現場において具体的にどのようなポイントに気をつけるべきなのでしょうか。

今回は、匠総合法律事務所 パートナー 代表社員弁護士 秋野 卓生 氏に、法務視点から対策の留意点についてお話しいただきました。

令和6年6月7日、改正建設業法が国会成立

このたびの建設業法改正の大きな背景として「2024年問題(時間外労働の上限規制)」が挙げられると秋野氏は説明します。

「今回の法改正は本来、残業の上限規制対策であるため、『技術者の配置のテコ入れ』が大きく議論されるべき項目でした。

しかしながら、実務的に大きく議論されたのは『資材高騰に伴う請負代金の増額が民間工事の請負契約書には入っていない』という問題です。

請負契約をビジネスとして遂行している建設会社が『工事が完了してみたら大赤字だった』というのは社会的課題です。そこで、『資材高騰に伴う請負代金の増額』という問題が法改正議論の中心に躍り出て、資材高騰時のルールが定められるに至ったのです」



また秋野氏は、今回の法改正によって建設業法のなかで初めてICTが位置づけられた点も重要なポイントだと紹介しました。

「国交省がICTを提唱しはじめた頃、不安を抱いた企業も多かったのではないでしょうか?『国交省が奨励するICT構想を本当に信じていいのだろうか?』『ドローンなどさまざまな機器に対して大規模な投資をしても無駄になるのではないだろうか?』といった不安です。私どもの事務所にも『本当にこの構想に乗っていいのでしょうか?』といった法律相談が数多く寄せられました。その答えは、『大丈夫』です。法律のなかでICTが明確に位置づけられたことを、皆さん知っておいていただきたく思います」

そして秋野氏は、「建設業界全体で高賃金を実現していくためには、生産性を向上させ、働き方改革を実現させることが不可欠です。これこそが今回の法改正の趣旨であり、担い手確保、持続可能な建設業へのシフトチェンジが目指すべき姿だとされています」と法改正の趣旨を説明しました。

法改正のポイント①「労務費確保」

続いて秋野氏は、今回の法改正をふまえて各建設関連企業が押さえるべきポイントの1つは「労務費確保」だと述べました。

「今回の法改正の趣旨は『労務費確保』です。しっかりと労務費を確保するために、『著しく低い請負代金で受注してはならない』という、原価割れ契約の受注禁止事項も設けられました。これは発注者側に対してだけでなく、受注者側に対しても適用されます。つまり『受注が欲しいから安い金額に値下げする』という考え方は禁止となったのです」

それでは、「著しく低い請負代金」とは具体的にどのように判断すべきなのでしょうか。

「『著しく低い請負代金』の具体的な基準点に関して、『中央建設審議会』が労務費の基準を作成・勧告※1するとされています。その基準を下回って請負契約してはいけないというのが、各企業の義務となります。よって、著しく低い労務費で見積を作成してはいけない、なおかつ、見積依頼もできなくなります。なお、違反企業に対しては、勧告・公表というペナルティも設けられることとなりました」

※1 労務費の基準について議論を開始~ 中央建設業審議会 労務費の基準に関するワーキンググループ(第1回)の開催



法令遵守対策:詳細見積もりの作成

労務費を適正に確保したうえで見積作成を進めるために、各企業は今後具体的にどのような取り組みを進めていくべきなのでしょうか。その答えは「詳細見積もりの作成」だと秋野氏は解説します。

「たとえば下請業者に見積依頼をして一式見積もりが来た場合、どこからどこまでが材料費で、どこまでが労務費かわかりませんよね。仮にそれで査定OKを出して発注書を発行し、請書をもらったとします。しかしいま、国交省地方整備局にGメンがいて、建設会社に対して立入調査を行っています。今回の法改正で調査権限も位置づけられました。よって、いままでより立入調査の回数は増える可能性があると見るべきです。」

秋野氏はさらに建設業法違反のリスクについて、話を続けます。

「突然会社へ調査に入られた、もしくは下請から法令遵守窓口に告発がなされて調査が入ったとしましょう。『この発注金額は著しく低い見積もり依頼に基づくものであって、原価割れ契約ではないか。お宅の会社は建設業法違反だ』などと指摘を受けたら驚いてしまいますよね。『そのつもりはまったくありません。下請も赤字などとは一言も言っていませんでした』などと主張したくても、残念ながらそれは通用しません。客観的に与えられている所与の情報かつ、今回から中央建設業審議会が標準労務費を決めるので、材料費と労務費、経費を加えて辻褄が合わなければ、建設業法違反になってしまうのです。

今回の建設業法改正は、令和6年6月7日から1年半を超えるまでの間に施行されます。それまでの間にまずは見積書慣行のなかで『詳細見積作成』という文化が根づいてはじめて、この規定遵守の土俵に乗れるといえるでしょう」

法改正のポイント②「労務費へのしわ寄せ防止」

そして、今回の法改正のポイントの2点目として「資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止」も見逃してはならないポイントだと秋野氏は続けます。

「『工事代金確定後に材料費が高騰してしまうと、労務費にしわ寄せが生じてしまう』という問題こそが、今回の法改正議論の本丸です」

建設会社が作成する見積書には「原価」「利益」「諸経費」「リスク対策」といった金額が盛り込まれています。しかし「下請の見積書・請書からすべて透明化し、情報公開する」というわけにもいかないため、今回の法改正に向けて議論が重ねられて結論が出た、と秋野氏は解説します。

「その『結論』のポイントを紹介すると、『契約前のルール』『契約後のルール』という2つのルールに分けることです。

『契約前のルール』は、『資材高騰』など請負額に影響を及ぼすリスクのある情報を、受注者(請負側)から発注者に対して提供する義務です。つまり、資材高騰が起きた際の請負代金の変更方法を明確に記載する、というものです。

そして『契約後のルール』とは、『どのような場面で請負代金増額に踏み切れるか?』という取り決めを指しています。リスク情報の提供義務を果たしている受注(請負)側が変更方法にのっとり協議を申し出た場合、注文者は、誠実に協議に応じる義務があると定められました」

法令遵守対策:見積書の電子化

それでは今後、「資材高騰」「請負代金折衝」などのリスクが顕在化した際、赤字に陥らないための具体的な対策として建設関連企業はどのような取り組みをしていくべきなのでしょうか。秋野氏は、次のように説明します。

「大事なポイントは、見積もり段階でしっかりとリスク情報を書面で提供することです。これがスタートラインだといえます。

  • 書面でリスク情報を提供する
  • 請負約款において、請負代金変更方法についての約定(取り決め)を明記する

この2つの条件を備えたものが、初めて請負代金変更を申し出ることが可能になります」

請負工事における「リスク情報」について、秋野氏は次のように説明を続けます。

「『リスク情報の提供』というポイントは、皆様に必ず押さえていただきたい点です。請負工事におけるリスク情報とは、たとえば地中埋設物など、山ほど想定されます。すると、まるで住宅設備機器の取扱説明書のように見積もり条件が膨大になるケースも考えられるでしょう。その際、『紙の見積書の後ろに、リスク説明書を10ページ添付』といった形式で運用していると、おそらく民間の発注書は驚いて戸惑ってしまいます。『これまで見たことのないようなリスク情報が膨大に書いてある』と驚いてしまいかねません。しかし、請負人としては法改正にそぐう対応をする必要があります。

そうした中で有効なのは、見積書の電子化です。PDFファイルがたとえ数十ページに及んでも、スクロールして読む状況ならば『モノ』としてのインパクトは薄れます」

法改正のポイント③「ICT活用」

今回の建設業法改正では、「ICT活用」についても初めて位置づけられました。秋野氏はその要点について次のように説明します。

「特定建設業者に対して『効率的な現場管理を、下請業者に対しても求める』。これが、努力義務化されました。特定建設業者は、このような対応をすることで、『専任義務を要求されている現場において、中間取りまとめでは、2つの現場を専任の主任技術者が見られる』あるいは 『事務所の専任技術者が現場も見れる(※要件:ICT活用)』と認められることとなりました」



まとめ

最後に秋野氏は「基本的に建設DXは便利なもので、労働安全衛生的にも優れています。DXは良いことだと前向きに捉えて対応してほしい」と語りました。

しかしその一方で、建設業法の規制はますます厳しくなっている側面もあります。たとえば、建設現場における「杭打ち」など、過去の不祥事再発防止のため、対面の立会が求められる場面も挙げられます。

そうした中、「いま建設業法上、何が許されるDXで、何が許されないDXなのか?」と、匠総合法律事務所にもたびたび相談が寄せられているそうです。

「DXに取り組んで便利さを追求すると同時に、不祥事を引き起こさないためのリスク対策を、万全の体制と社員教育のもとで取り組んでいただきたい」と秋野氏は述べました。

本記事のなかで、請負側がリスク情報をあらかじめ発注側に提供する形式として「見積書の電子化」が有効な手段だと紹介されました。

それだけではなく、日々の業務全体を見渡してさまざまな書類のペーパーレス化を進めることは、効率アップ、生産性向上の一助となり得ます。

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監修者

秋野弁護士 ​​​​秋野卓生氏
 匠総合法律事務所 
 パートナー 代表社員弁護士

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