DXを推進したいけれど、どのように進めたらよいかわからないと悩む、建設業の経営者や担当者の方は少なくありません。
大末建設株式会社は1947年設立。2025年大阪・関西万博に、チェコ・ナショナルパビリオンの建設業者として参画して話題になりました。そうした中、2022年4月にDX推進プロジェクトを発足。2年間という超短期間で、トップコミットメントのもと「全社のDX」をやり切りました。
同社がDXに「取り組まなければならなかった」背景とは、どのようなものだったのでしょうか。その具体的な取り組みや、システム、足元の成果について、同社、取締役常務執行役員の片岡氏に語っていただきました。
建設DXで目指したのは「体質の変革」
かつて、大末建設は建設不況の際にかなり苦戦したという背景から、板状マンションの請負事業に特化するという生き残り戦略を取りました。マンションでしっかり稼ぐという方針です。そして、コスト管理を徹底、規律重視の受注体制、堅実な予算管理を徹底したおかげで復活を遂げました。2010年代には環境にも恵まれ、キャッシュリッチな企業へと変貌を遂げていたといいます。
いっぽうで「弊害」もあったと片岡氏は語ります。
「業務プロセスは単一化しました。コスト重視であるあまり守りの姿勢が強く、受け身の文化になってしまいました。また組織の縦割り化も起こりました。まるで東日本と西日本の本支店が別の会社みたいになっていたのです。キャッシュリッチにもかかわらず、必要な投資をなかなか進められず、組織の活性度が低下していました」

果たして、そんな状況で2021年のプライム市場への挑戦、また2037年に迎える「創業100周年」に向けて、飛躍的な成長を実現できるのか、疑問が生じたといいます。
折しも世の中は、建設業の残業規制問題、レガシーシステムによる2025年問題、高齢化や人口減少による担い手不足、世界的な政情不安による資材高騰など、厳しい時代を迎えようとしていました。
当時の大末建設は、人材不足から若手人材に対しなかなか教育する時間をつくれないだけでなく、デジタルに投資できず、IT環境が十分整っていませんでした。
「では、どのように打破するのか。我々は、DX推進によりこれらの課題解決を図り、ダイナミズム溢れる企業文化・体質に変革することを選びました。すなわち、DXを通じた抜本的な組織変化です」

トップがコミットする“儲かるDX”に特化
大末建設のDX成功のポイントとして、片岡氏は下記の4つを挙げました。- トップコミットメント
- 適切な組織体制構築と権限付与
- 短期集中、儲かるDXに特化(生産性の向上、利益改善)
- 外部の力の活用(コンサル会社、開発会社による伴走体制)
そして彼らが主軸に据えたのは「儲かるDX」です。生産性の向上や、利益改善につながる取り組みにリソースを集中しました。
また、外部のコンサル会社に入ってもらうことで、外的な推進圧力とすると同時に、第三者的な目線で冷静なアドバイスをもらえる環境を構築しました。
外部の力も借りながら走り切った2年間
大末建設は、構想約1年、開発約1年という短期間で全社のDXシステムをフルスクラッチで構築しました。それはどのような取り組みだったのでしょうか。綿密な計画とコンサル会社による業務整理
片岡氏はまず綿密な計画を立てました。その際、フルスクラッチで開発をするものの、eYachoやDirectといった、既存のソフトウェアで活用できるものも、上手く計画に組み込みました。
さらにコンサル会社と連携し、要件定義を固めていったといいます。
「第一フェーズの業務調査・整理・要件定義ですが、ここはコンサル会社に入っていただきました。5名のスタッフに大末建設の本社に常駐していただき、業務を細かく調査いただきました。そのうえで課題整理、改善提案を当社の社員と一緒に考えています。経営DX、営業DX、施工DX、システムの4つのグループを組成し、グループごとに議論を重ね、必要な機能やユーザーストーリーを作成していきました」

何を目的としてDXを推進するのか3C分析などで明確化
片岡氏は、DX推進によって「何を実現するのか」を3C分析なども使い、明確化していきました。大末建設では「顧客」「業者」「自社」の3つを軸に分析しています。
「まず、顧客すなわち施主です。施主ごとに過去の実績を分析し、どのようなデータを分析すると新規受注や追加発注につながるかということを明確化しました。
次に業者。協力業者の過去の実績や強みをどのように分析すれば、原価を圧縮できるかを検討しました。自社については、発注実績や費用単価のデータ分析方法の検討と、いかに戦略的な交渉ができるかを明確化していきました」
目指すべき姿=ゴールを部門ごとに具体化し定義
DXによって目指すべきゴールを部門ごとに具体的に定義をしています。たとえば営業の場合、営業員自身が「超概算を1日で算出できる」、「過去のVE・CDの状態を知ることによって営業が顧客により具体的な提案ができる」ということを目指しました。

同様に、経営部門ではアラート機能により、「前月からの損益が悪化している現場が把握できる」といった仕組みを構築したと言います。さらに、アラートに対して工事部長が対策を打たないとアラートが表示され続けるようになっており、対応せざるを得ない、よりスピーディーに対応できる仕掛けになっています。
試作品を操作しながら修繕依頼。アジャイル開発手法が現場にマッチ
開発手法は短い期間で試作品を試しながら進めていく「アジャイル開発手法」を選択しました。片岡氏はこれがマッチしていたといいます。
「アジャイル開発は柔軟性が高く要件変更に対応しやすい点が特長です。早期に試作品を製作し、触ってみてすぐに修繕依頼をする、というのを一週間サイクルで行いました」
さらに、開発体制も盤石にしていきました。
「開発はベトナム最大のIT企業であるFPT社に依頼しました。彼らにも東京本店に10名常駐していただき、常に打ち合わせをしながら進めました。また、オフショア開発者は40名~50名、常時手配いただきリアルタイムで現地とリアルタイムでやり取りをしました。
2023年7月には、DX推進部長がベトナムの開発センターを訪問。当社のDXへの想いや背景、大末建設の文化をしっかりと伝えて、その場で画面や機能の修正や改善を行いました。これによって開発者のモチベーションもさらに上がったと考えています」
3つのサブシステムからなる大末建設のDXシステム
DXシステムは基幹システムや関連システムと連携しながら、クラウドにデータを蓄積します。経営DX、営業DX、施工DXの3つのサブシステム、17の機能で構成され、クラウド経由でいつでもどこでもデータの閲覧が可能です。
片岡氏は、DXシステムについて詳しく解説しました。
「ホーム画面は、情報カード方式ということで8つの情報カードを、自分の好きなように配置できる仕組みにしています。経営DXでは実績や進捗管理をグラフ表示で見ることができます。また現場所長による過去の実績の推移も表示可能です。
営業DXについては、類似物件を検索しそれに営業担当の顧客の物件情報を調整することによって、超概算が容易につくれる仕組みにしました。施工DXは、発注単価や協力会社を一覧に出せるようになっています。新人の所長でも過去データから実行予算の作成が可能です。仕上げ進捗管理では、施工の人数や完工期日を入力することで、工程スケジュールが自動生成できる仕組みになっています」

業務効率化だけでなく、受注時粗利益率の改善やIT人材の採用まで
2024年4月に正式リリースしたDXシステムですが、足元では着実に成果が出ていると片岡氏は解説します。「超概算見積もり件数は4月から11月末時点で457件です。営業担当が行いますので、積算担当者の仕事が空いたということになります。受注時粗利益率は昨年対比で1.8ポイント上昇しました。営業がいろんなデータや過去実績を参照することで顧客との交渉が数段あがったことが背景です。
IT人材は過去からずっと募集をしていましたが、なかなか募集にも応じてもらえず、面談して内定を出しても入社してもらえませんでした。それが、この一年で4名増員することに成功しました。DXへ積極的に取り組んでいることを決算説明でも話していますが、そうした影響もあり採用できたのだと思います」
創業100周年に向けて。大末建設の今後の挑戦
大末建設は早くも次なる挑戦に目を向けています。
「2025年にはDXのパート2を計画しています。次は現場DX、施工計画書の自動化、省力化、現場の働き方改革、そしてAI活用も検討していきたいと考えています。その後もDXによる業務の自動化、高度化をやり続ける、ということで2030年の目標、さらに創業100周年に向けて成長していきたいと考えています」
まとめ
大末建設は、DXによる抜本的な組織変革を掲げ、2年間という超短期間でDXシステムの構築をやり切りました。データの蓄積、可視化、共有により経営や営業の業務が効率化できただけでなく、受注時粗利益率の向上、さらにはこれまでなかなか採用できなかったIT人材の採用にもつながっています。
こうした成果につながった要因として、トップのコミットメントと体制の構築が挙げられます。社長自らがDX推進本部を率い、現場の精鋭でチームを固めました。同社のDX推進への並々ならぬ気迫がうかがえます。
一方で、いきなり全社を挙げたDX推進となると、躊躇する企業のご担当者も少なからずいらっしゃるかと思います。そうした場合、建設業で大きな課題となっている「ペーパーレス化」から取り組むのもおすすめです。
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