建設DXで若手のモチベーションアップ。人材採用や育成にも役立つ屋部土建の11の取り組み

「現場DX」と「バックオフィスDX」に取り組み、ペーパーレス化や若手のモチベーションアップ、UAVレーザーによる効率化、ICT施工による現場の週休2日の達成など数々の成果を上げている屋部土建の具体的な取り組みを同社の入佐氏に解説いただきます。

建設業では2019年より「新・担い手三法」が順次施行され、2024年4月からは時間外労働の上限規制も適用されるようになりました。こうした背景のなか、各社、生産性向上への取り組み、i-Constructionへの対応など、働き方改革や建設DXの導入・推進に追われているのではないでしょうか。
 
沖縄県浦添市に本社を構える総合建設業、株式会社屋部土建では2017年からバックオフィスのDX、それ以前からドローンやBIM活用などの現場のDXに取り組んでいます。その結果、ペーパーレス化や若手のモチベーションアップ、UAVレーザーによる効率化、ICT施工による現場の週休2日の達成など数々の成果を上げています。
 
具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか? 株式会社屋部土建 常務取締役 入佐学氏に詳しく解説いただきました。

現場のDXとバックオフィスのDXを早くから推進

株式会社屋部土建は沖縄県浦添市に本社(同県名護市に本店)を構える総合建設業で、沖縄県や沖縄総合事務局、琉球大学といった沖縄県内の発注者はもちろん、県外も含め多数の工事実績がある企業です。

同社ではDX部門を設け、早くから建設DXを推進しています。取り組みの特徴として、ドローン、BIM/CIMといった現場のDXだけでなく、電子契約などのバックオフィス業務のDXにも早くから取り組んでいた点が挙げられます。



入佐氏は当時のことを次のように振り返ります。
 
「2017年当時、社長であった津波(現、会長)からの一言でDXの取り組みに着手。まずはGoogle Workspaceの導入からスタートしました。建設業協会(一般社団法人 沖縄建設業協会)の緊急時の連絡用にGmailが使用されていたというのが発端でした。この取り組みによって、データをクラウドに保存するという仕組みができあがり、作業効率も非常に向上しました」
 
その後、iPhoneやiPadを社員へ貸与し、写真管理ソフトや勤怠管理ソフト、チャットツールなどを順次導入していきました。2020年にはコロナ禍が日本を直撃しますが、その頃には多くの業務のクラウド化が進んでいたため、業務への影響も抑えられたと言います。



建設現場のDXについても、同社は他社に先駆けて取り組んでいました。

「当社では、2016年のi-Construcitionの前からドローンを購入しておりました。その後BIMを導入、2018年にはCIMとVRの取り組みをはじめています。最近ではUAVレーザーや3Dプリンターといった設備を活用しています。ドローンの民間資格保有者は、20名となっています」

また、DX推進のステップとして入佐氏は下記のようなステップで進めたと振り返ります。まずは現場レベルなどスモールスタートでリスクを抑えながら、少しずつ周りを巻き込みます。また社長や役員に使ってもらう、ときには社長や役員をうまく使う、といったことも大切だと述べます。

入佐氏は、今後さらに取り組みを発展させ、発注者や協力会社などステークホルダーとの連携を強化しながら、業界全体としての生産性向上や業務効率化に貢献していきたいと解説しました。



では、株式会社屋部土建が現場のDX、そしてバックオフィスのDXで得た成果とはどのようなモノだったのでしょうか。

バックオフィス業務の効率化により若手のモチベーションもアップ

入佐氏は、バックオフィス業務のDX(建設現場以外のDX)として以下の5つを、一例として紹介しました。
 
  • 役員会議のリモート化
  • 下請契約の電子化
  • 施工管理アプリの活用
  • 写真管理のクラウド化
  • RPAの活用

 役員会議のリモート化

同社では毎週月曜の朝に役員会議を行っています。これをリモートで行うことにより、大幅な業務時間の削減、ペーパーレス、コスト削減を実現しました。入佐氏は次のように述べます。
 
「役員会では当日の資料を、担当社員が会議の1時間ほど前に出社し、使用する書類の印刷・配布などの準備作業を行っていました。役員会議をリモートで行うことにより、ペーパーレス化し、担当社員の作業を無くしました。資料は会議の出席者が事前に自ら作成しています。日程調整もiPadでカレンダーを共有することでスムーズになりました。役員会の情報はクラウドからリアルタイムで確認でき、大幅な業務時間の削減につながっています。自宅から近いオフィスでリモート会議を行っているため、通勤中の事故リスクや通勤コストの削減にもつながっています」


下請契約の電子化

下請契約については電子契約を導入することで、業務効率化はもちろん協力会社も含めたコスト削減につながっています。

「下請契約については、以前は契約書を印刷し郵送していました。現在は99%が電子契約になっており、製本作業が無くなるなどの大幅な業務効率化とともに、契約状況の可視化、郵送コストの削減、協力会社も含め印紙代の削減につながるなど、さまざまなメリットが出てきています」

施工管理のアプリの活用

写真管理はそれまでは非常に時間がかかる作業だったといいます。施工管理アプリの活用が現場の残業削減につながると同時に、若手のモチベーションアップにもつながっているようです。また、写真管理のクラウド化については、現場単位の導入からスタートし、若手が自ら役員にプレゼンすることで全現場への導入につながった事例とのことです。
 
「現場の写真管理については、従来非常に時間がかかるものでした。重い機材を抱えて現場に赴き、事務所に戻ってからも作業が必要でしたが、今は荷物もほぼiPadのみ、データはクラウド上でいつでも誰でも見ることができ、事務所での作業も削減されました。また、導入時に行った若手によるプレゼンに対しても、昔の現場のフィルム時代を知っている役員は大きな業務効率化が期待できると判断したことで、全現場で導入が進みました」

写真管理のクラウド化

現場の写真管理業務も、同社はクラウド化や専属担当者の採用など、工夫をすることで効率化しています。
 
「写真管理は業務に追われて後回しになりがちで、毎日コツコツしないとどんどん溜まります。特に、検査前に一気にやって残業といった悪循環に陥っているケースが多く見られました。当社では、専属担当者がリモートで現場の写真整理を行います。今までその業務を行っていた担当社員はその業務から解放され、別の業務にチャレンジできるなど、現場の労働時間削減だけでなく多くのメリットが出ています」

RPAの活用

RPA(ロボティックプロセスオートメーション:プログラムで定型業務を自動化するソフト)の活用により、定型業務の効率化にも取り組んでいます。入佐氏は、一例として米軍パスの申請業務を紹介しました。

「RPA活用にも取り組んでいます。たとえば、米軍パスの申請は非常に大変です。協力会社の方から情報をもらい、それを入力し申請するといった流れかと思います。当社ではRPAを活用し、PDFへの転記はすべてロボット(プログラム)で行っています。個人情報を取り扱いますのでシステムでデータのやり取りも安全にやりつつ、現場での作業を無くすことに成功しました」



また、同社では現場をサポートする建設ディレクター(ITとコミュニケーションスキルで現場を支援する新たな職種)の育成にも取り組んでいます。こうした取り組みが、人材採用にもつながっているといいます。入佐氏はIT活用における若手人材の力について、このように語ります。
 
「若い方にITを与えると、すぐに業務とつなげて改善を図ってくれます。ほんとうに若い方の力はすごいと思います」

ICT施工で25%の時間短縮。現場の週休2日も達成

屋部土建では現場のDXにも積極的に力を入れています。今回は一例として、下記の6つの例を紹介いただきました。
 
  • UAVレーザーによる起工測量
  • デジタルツイン
  • AR(拡張現実)
  • ICT施工
  • BIM
  • 他社との連携

UAVレーザーによる起工測量

早くからドローン活用に取り組んでいる同社では、UAVレーザーによる起工測量によって大きな業務効率化を実現しています。

「UAVレーザーで起工測量を行い、モデル化を行っています。ドローンを活用することで5日間の短縮につながっています。また、UAVで取得した点群データをもとにイメージを任意の箇所で切断し断面図を作成するなどしています。測量作業の手間も省けますし数値計算も省力ができるため、現在はこうした作業も1人で、1日で完了できるようになりました」


デジタルツイン

ドローン活用で取得したデータは、3Dモデル(デジタルツイン)化し、関係者との事前の合意形成や安全教育に役立てています。
 
「ドローンで取得した点群データを、施工前と施工後で3Dモデル(デジタルツイン)化しています。外注するという選択肢もありますが、当社では内製に舵を切り人材育成も進めています。他にも、土木工事の施工ステップを3Dで動画にしています。こうした動画を活用することにより、発注者の方との合意形成や新人の安全教育、職人の方々の安全教育につなげています」



デジタルツインは工程の効率化にも役立っています。

「施工検討モデルを3Dで作成することで、二次元では事前に把握できない情報も、事前に把握できるようになりました。たとえば、計画ではあるものの施工はできない箇所を事前に発見し、手戻りがないようにするような取り組みも行っています」



AR(拡張現実)

ARは拡張現実の略で、タブレットなどに映した現実の映像に、建築物のデジタル情報を重ねて投影することが可能です。屋部土建では、ARも現場で活用しています。
 
「AR(拡張現実)の活用では、作成したモデルを現場でタブレット上に反映し、実際の景色と完成図を重ね合わせることで、合意形成や完成後のイメージを互いに共有するといった取り組みも試験的に行っています」


ICT施工

入佐氏は、同社におけるICT施工の例として、マシンガイダンス(MG:建機と目的地の位置関係をモニタ上に表示することで操縦者をサポートする)活用による時間短縮を紹介しました。
 
「ICT施工についてはマシンガイダンス技術を活用し、生産性向上や25%の時間短縮、現場の週休2日の達成といった実績があります」

BIM

同社は土木だけでなく、建築でも現場のDXに取り組んでいます。一例としてBIMが挙げられます。

「建築についてはBIMを中心に取り組んでいます。モデル化を行うことで仮設や仮囲い、足場の検討、重機の配置など、事前に課題を把握するような取り組みを行っています。土木と同様に3Dの施工ステップ図を作成し、関係者間の合意形成に生かしています。ほかにも配筋モデルを作成し、アンカーボルトと鉄筋の干渉を確認し事前の配筋計画や、そのデータを現場に提供し施工に反映するなどの取り組みを行っています」


他社との連携

屋部土建の取り組みのもう1つの特徴として、自社に閉じた取り組みではなく、発注者や協力会社など他社と連携した取り組みであるという点が挙げられます。

「建設DXの取り組みとして、他社との連携にも力を入れています。具体的には協力会社からいただいた鉄骨モデルをデータとして取り込み、BIMモデルと重ね合わせ、おさまりなどをチェック、それをフィードバックし鉄骨製作に移るといった取り組みです。同様に、鉄骨モデルを取り込み、配筋モデルを重ね合わせ鉄筋孔位置を確認、その修正モデルをもとに鉄骨を製作するという取り組みも行っています」



他社との連携のなかには、人材育成も含まれます。たとえば、同業他社で建設DXに積極的取り組んでいる企業の研修プログラムに従業員を参加させるといった取り組みです。こうした取り組みは建設DXの推進、人材育成はもちろん、従業員のモチベーションアップにもつながるといえます。

まとめ

入佐氏はこれまでの取り組みを振り返り、生産性向上という目標に対して具体的な数値化はできていないが、確実に業務効率は向上していると語ります。また、建設DXの取り組みは自社の人材採用と人材育成につながっているともいいます。

「建設DXの取り組みが採用につながり、当社の魅力のアピールにつながっていると感じています。社員が新しいことに取り組む環境をつくることで、会社のことを考えて行動できる人材の育成につながっています。建設業には若手が来ない、高齢化などさまざまな課題がありますが、建設DXに取り組むことで生産性を向上させながら、経営課題の解決につながるのではないかと考えています。みなさんもぜひ取り組んでいただければと思います」

今回ご紹介した屋部土建は、早くからDXに取り組み、現場のDXだけでなくバックオフィス業務のDXも推進した事例でした。ドローンやBIM、AR、ICT施工など、一定の設備投資や技術獲得が必要なためすぐには難しいと考える方もいらっしゃるかもしれません。

そのような企業のご担当者の方は、まずはバックオフィスのDXから進めていくというのも有効打の1つとなります。たとえば屋部土建が取り組んだ電子契約をはじめとした「脱・書類」は、業務効率化やコスト削減など成果も比較的出しやすい取り組みの一つです。

契約書だけでなく、見積書や請求書、出来高請求書など、建設業ではまだまだ紙の書類のやり取りが多いのが実情です。こうした書類業務をデジタル化できれば、自社のDXを一歩進めることにつながるでしょう。

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