
遅れる行政のDX
残念ながら行政機関は、DXをはじめ時流に遅れている印象を世間から持たれているかもしれません。民間企業は顧客から選ばれるために組織やサービス、仕事のやり方をアップデートしています。一方で、行政機関は科学技術の進歩や激動の時代といった言葉を様々な場面で頻繁に聞いているにも関わらず、非生産的な仕事でもミスを避けるために慣れ親しんだ従来のやり方を変えたくないといった理由もあり、政策や仕事のやり方がインターネットやAIが無かった頃と同じものが多く残っています。DXは避けて通れないので「住民の個性や強みを活かす」、「極力、行政コストや業務処理時間等に関して住民や企業の負担をかけない」といった真摯で強固な意志を期待したいです。
行政DXの未来とその意義
例えば、BtoBプラットフォームの導入により自治体も、地域住民(企業)の皆様も、見積り・契約・請求等の業務について行政経費や処理時間が削減されます。紙を持参する必要もなく、災害時でも文書は安全に保存されます。その浮いた時間に公務員が作った政策が、多くの住民を幸福にします。また、企業間のビジネスチャンスの拡大や行政機関の業務の標準化による日本の企業全体の生産性の向上にもつながります。導入を検討される際には、行政機関内部の費用対効果に加え、地域の住民や企業の方々の可処分所得や時間、チャンスの拡大など、地域全体に与えるポジティブな影響も考えていただくことが大切だと思います。
科学技術の進歩を活かし、生産性を高めることで失われた30年を終わらせるためにも、まず、現在の公務員の業務が住民等の「能力・暮らし・人生」をどう変えたいのかという目的を明確にすることです。そのうえで、現在の科学技術や社会経済情勢のもとで目的を達成するために住民にとっての最善、つまり住民の個性や強みをより活かすための可処分所得・可処分時間・チャンスをできるだけ奪わない方法を実現することです。
本コラムの著者プロフィール

一般社団法人 未来創造ネットワーク 代表理事
松藤 保孝 氏
自治省(現総務省)入省後、三重県知事公室企画室長、神奈川県国民健康保険課長、環境計画課長、市町村課長、経済産業省中小企業庁企画官、総務省大臣官房企画官、堺市財政局長、関西学院大学大学院 法学研究科・経営戦略研究科教授、内閣府地方創生推進室内閣参事官等を歴任し、さまざまな政策の企画立案、スリムで強靭な組織の構築、行政の業務方法や制度のイノベーションを推進。一昨年退官後、地域の個性や強みを生かすイノベーションを推進する活動を行う。