東京都国分寺市を拠点に、牛、豚、鶏の内臓肉を中心に扱う立川臓器。焼肉、焼鳥、居酒屋、ラーメン店など500件の取引先ごとに「2ミリスライス」「タン下なし」など個別要望に応えてきました。その一方で、現場では早朝3時から受注業務を始めねばならず、大きな負担となっていました。
このままでは会社が立ち行かなくなるという危機感のもと、電話・FAX受注を廃止して、スマホを使った受発注システム『TANOMU』を導入。代表取締役の鈴木康弘氏に、業務改革の軌跡を伺います。
ココがPOINT!
- 受注業務が3時間から30分に短縮し、早出の出勤時間を3時から5時に変更
- 手作業で集計していた商品数量の計算が、ボタンひとつで完結
- 顧客別の要望をデータで記録し、属人化していた受注ルールを平準化
鮮度への絶対的な自信と引き換えにした過酷な早朝作業
毎日の受注作業の実態について教えてください。
代表取締役 鈴木 康弘氏(以下同):
当社では、内臓肉を中心とした商品の鮮度を徹底管理するとともに、取引先の飲食店様ごとのご要望にお応えして加工・配送しています。しかし、そのこだわりを実現するため、受注作業は煩雑になり過酷を極めていました。
毎朝3時前に出勤し、注文の留守番電話80件を聞き取り、FAXで届いた発注書100枚を確認します。さらに、営業個人宛のLINEやメールなどもあり、合計200件ほどの注文内容をまとめて紙に書き写して、配送ルートごとに1枚ずつ分けていったのです。
同時に、牛、豚、鶏の部位、国産、ブラジル産などの産地、チルドや冷凍など、商品ごとに必要な数量を集計し、スライスやひき肉などの加工指示書を作成します。この膨大な手間に追われていました。
電話・FAXの受注処理では、どのようなことがたいへんでしたか?
注文を手作業で処理する代償は計り知れません。FAXには正式な商品名や加工方法が記載されていることはほぼなく、「生姜焼き用10」「ひき肉3」など、原料も単位も分からないのです。留守番電話も電波が途切れて音声が聞けないといったことは日常茶飯事でした。
さらに、商品の集計中に商品と数量を別々の行に書いたり、数字を間違えたりといった転記ミスが避けられず、現場から厳しい言葉をもらう日もありました。3時に出勤して集計や加工指示を行い、6時にピッキング、7時から商品の用意を進めるものの、人為的ミスの発見やリカバリー、確認作業などで30分のロスが発生し、8時30分からの配送開始に支障をきたす悪循環。結果として、受注から出荷までに5時間を費やしていました。
現場のDXで働き方を見直す決断
現状のやり方を変えなければならないと考えた契機は何ですか?
朝3時に出勤していただける人を募集し続ければ、今のままでもなんとか回るかもしれません。しかし、社会全体で働き方が問われる中、社労士からも早朝勤務の改善を求められます。このままではまずい、人海戦術では会社の未来がないと危機感を抱いていました。
そんな折、インフォマートの案内で受発注システム『TANOMU』というものがあることを知り、2024年5月に導入を決断しました。導入してどれくらい効果があるかは未知数でしたが、とにかく今の状況を変えようという気持ちで一歩を踏み出したのです。
社内や取引先から、反対の声はありましたか?
社内からは、今のままでも対応できるのに手間が増えて逆に時間がかかると強い反発を受けました。取引先ごとの細かい加工要望にシステムで対応できるのか、といった不安の声も続出したのです。
また、このシステムは取引先の飲食店様に電話やFAXの発注をやめて、スマホでLINEアプリを使った発注に切り替えていただく必要があります。若い方はともかく、ご年配の店主はスマホの操作は難しいのではという懸念もありました。
そういった声ひとつひとつを真正面から受け、まずは社長である自分がやってみる、だからついてきてほしいと説得していったのです。
現場と顧客の反発を乗り越えた細やかな導入ステップ
システムを稼働させる段階で、特につまずいたことは何ですか?
お取引先様ごとの細かい要望への対応です。豚タン一つとっても、タンシタはいらない、タンシタ付きが欲しいなど、500件のお取引先様ごとに個別の要望があります。発注単位も半分、1kg、3枚、1本などバラバラで、それを一つずつシステムに落とし込んでいく作業で頭が煙を吹く時期もありました。
その複雑な条件をどうクリアしたのですか?
同一商品でもグラム、キロ、本などの単位を複数登録して、お取引先様が迷わないようにしました。また、受発注システム『TANOMU』には、お取引先様が入力する備考のほか、社内用の備考欄もあるのです。この機能をフル活用しました。
例えば、豚タン4本といった注文は、社内用備考欄に2本×2で作ること、などと納品ルールを記載しておきます。これをメモ欄として作業指示書に印刷反映する設定をしました。こういった個別のルールを洗い出していったことで、以前はベテランの受注担当しか処理できなかった暗黙の内容が、誰が見ても分かる仕組みへと変わりました。
取引先に発注方法を切り替える案内は、どのように進めましたか?
すべての取引先を一気に切り替えてしまうとパニックになるため、取引先ごとに案内するスケジュールを設定しました。まずは、すぐにスマホ発注に移行していただけそうなお取引先様に二次元コード付きのログイン用紙を配って協力を要請しました。2カ月の期間を経て発注切り替えを促していったのです。その次に、何度かお願いしたら理解していただけそうなお取引先様に移行を進めました。
スマホ操作が苦手なお取引先様へのフォローはどうされましたか?
一軒一軒回って、スマホのカメラでこの二次元コードを撮ればLINEが起動して注文できますと、その場で実演しながら丁寧に説明しました。こちらも全面的な受注デジタル化を進める前に数店の取引先でテスト運用を実施し、説明の事前準備していたのです。そうした対応で、発注方法の変更を原因とする取引終了をゼロに抑えられました。
『TANOMU』導入から6か月後、段階的にデジタル化を案内していき、切りのいいタイミングですべてのお取引先様に、今後の注文はFAXや電話では受け付けません、受発注システムのみ受け付けますと宣言しました。
劇的な時間短縮と前向きな組織への変貌
導入後、現場の働き方はどう変わりましたか?
5時間かかっていた受注関連の作業が、2時間に減りました。特に2時間以上かかっていた商品ごとの集計作業が、ボタンひとつ押すだけで印刷まで完了する手軽さです。
また、転記ミスも集計ミスも受注漏れも解消したことで確認作業も短縮され、朝3時から早出出勤していた社員も今は5時の出勤で対応可能となったのです。
受注のデジタル化は、どのくらい進みましたか?
現在、月間約4000件の注文をいただいていますが、一部の同業者とのFAXやり取りを除けば、取引先の飲食店様すべてが『TANOMU』を使ったデジタル受発注になりました。注文書には取引先コードも商品コードもあるため、入社間もない従業員でも受注処理できますし、担当者が休んでも誰でもカバーできる体制になりました。受注処理自体は1、2名で回せています。何より、もう留守番電話のメッセージを聞かなくていいという思いが大きいです。
会社全体の雰囲気も変わりました。受注のデジタル化により明確な加工指示が流れることで、従業員が動きやすい状況が生まれています。これまでは不明瞭な加工指示による加工ミスが発生した際は、指示内容不足で片付けられ、言い訳がしやすい環境でした。また、現場から何度も内容を確認する手間といった見えない作業コストが解消されたのです。
何より、職場がDXしたという前向きな考えが浸透し、主体的に考えて動ける会社へと成長したことは、数字には表れない大きな成果と言えるでしょう。ムダな残業を減らして新しいことに取り組んでほしいという私の思いが従業員に伝わったと感じます。
業界全体を巻き込むスマートな未来へ
今後の展開や、さらなる改善に向けた目標をお聞かせください。
当社が実現した受注デジタル化の成功体験をもとに、同じような課題にお悩みの同業者様に解決のお手伝いとなることができればと思います。この業界は、とにかくFAX作業が根強く残っています。業界全体がスマートに働ける未来を実現したいと考えます。
※掲載内容は取材当時のものです。





