【事例で見る】地域DXとは? 注目の理由や今後の課題・展望

2024/09/18

地域DXは、地方自治体のDXと地域住民や企業が科学技術の進歩を享受し生かす地域社会のDXに併せて取り組むことが求められます。

本記事では、地域DXの定義や背景、国や自治体の取り組み事例をまじえながら、デジタル化による地域住民や企業のデジタル技術を活用したイノベーションや課題解決の道を探ります。

DXの変遷と自治体がDXを推進する意義

AIやIoTなど、科学技術が大きく変化し、その進化を生かして私たちの暮らしは大きく変わりつつあります。2020年に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」では、目指すべきデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が示されました。

社会全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が求められており、新たなデジタル技術が日々進展している状況を自治体においても注視し、各団体それぞれの地域課題に応じたデジタル実装の取組へ活かすことが求められています。2023年6月にデジタル社会形成基本法第37条第1項等に基づき閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、先述のビジョン実現のためには、「住民に身近な行政を担う自治体、とりわけ市区町村の役割は極めて重要であり、自治体のDXを推進する意義は大きい」とされています。

地域DXとは

地域DXとは、AI、IoT、ビッグデータ、5Gなどの先進技術を導入し、多様な幸福の実現、地域経済の活性化、行政サービスの向上や効率化などを目指します。

例えば、高齢化が進む地域で、IoTセンサーを活用した見守りサービスを導入することで、ひとり暮らしをしている高齢者の安全と健康を確保しつつ、介護人材の負担を軽減できます。また、地域の特産品をEC(電子商取引)で販売することで、販路拡大と収益向上を図ることも可能です。

地域DXは、地域住民や企業の新たな価値創造に貢献し、その地域の魅力や住民の生活の質を向上させることが期待されます。

いま、地域DXが注目されている理由

地域DXが注目されている背景には、地域社会が直面するさまざまな課題があります。特に、少子高齢化と人口減少は深刻な問題です。若者の流出や出生率の低下により、地方都市や農村部では、労働力不足、経済の衰退が課題となっています。

一方で、インターネットの普及により、全国どこにいても世界のマーケットや人々とつながり、さらに専門的かつ高度な知識にもアクセスすることが可能になりました。これにより、業務の高度化や省力化が進み、新事業の創出や生産性の向上も期待されています。

さらに、住民サービスの向上と行政効率化への期待も大きいです。高齢化に伴う医療・介護需要の増大、インフラの老朽化、災害対応など、地域が抱える課題は山積みです。デジタル技術を導入することで、きめ細かな住民サービスの提供や、業務の自動化・省力化による行政コストの削減が可能となります。

地域DXは、地域住民の多様な幸福の創造と、地域社会の持続可能性と発展に不可欠な取り組みとして、世界中で注目を集めているのです。

政府による地域DXの支援事例

地域DXに向けて、国がどのような支援を実施しているのかをご紹介します。

地域DXに取り組む自治体や企業を支援

政府は、地域DXの推進を支援しています。

「デジタル田園都市国家構想」(内閣官房)では、デジタル技術を活用して地方の活性化を目指す方針を打ち出しました。全国の自治体に対し、デジタル人材の確保・育成や5Gやデジタルインフラの整備を行い「誰一人取り残されないための取り組み」を進めています。その他、総務省、経済産業省、農林水産産省、国土交通省はじめ各省庁が、地域のDX推進のためにさまざまな支援を行っています。

デジタル田園都市国家構想の概要や事例については以下の記事をご参照ください。

自治体の地域DXの取り組み事例

自治体では地域DXに向けてどのような取り組みを行っているのか、事例を紹介します。

自治体の地域DXの取り組み事例イメージ画像

福島県会津若松市のスマートシティ構想

会津若松市は、令和4年度から国による「デジタル田園都市国家構想交付金」の支援を利用しながらスマートシティ構想を推進しています。

スマートシティ会津若松では「行政・防災・健康・農業・交通・決済」などの住民の生活に関わる様々な分野デジタルを活用した取り組みを推進し、地域の活性化や生活の利便性の向上を図ります。

会津若松市には観光地も多いため、観光分野の対策は重要です。そこで、会津若松市に特化した観光支援サービス「visitory(ビジトリー)」を運営し、飲食店や観光スポットの開店状況や、タクシー・バスなどの公共交通機関の情報を閲覧できます。

また、行政手続きのオンライン化にも積極的です。各種申請を窓口ではなくスマートフォンで完結できる仕組みを構築し「書かない申請」を実現しました。

島根県雲南市の地域DXコンセプト

雲南市では、「チャレンジの連鎖の発展・加速による持続可能なまちづくり」を目指し、地域DX基本コンセプトを策定しています。この構想では、「暮らしの豊かさ(Well-being)の向上」「共助・共創のまちづくりの推進」「リアル×デジタルによる個別最適化の推進」を3つの柱として掲げています。

雲南市の地域DXでは、「保健・医療・介護」「安心安全な暮らし」「地域産業」「農林業」「教育」などの住民の生活に関わる様々な分野でデジタルを活用した取り組みを推進し、地域の活性化や生活の利便性の向上を図ります。

雲南市では高齢化に伴う医療・介護需要の増大と、ケアをする人材不足が課題となっているため、保健・医療・介護分野のDX化は重要です。そこで、マイナンバーカードなどを活用した横断的なデータ活用システムの構築を進めています。このシステムにより、医療・介護・福祉分野での情報共有が可能となり、市民は必要なサービスをどこにいても安心して受けられるようになります。さらに、遠隔診療や電子処方箋の普及、ICTを活用した業務効率化により、より質の高い医療やケアの提供を目指しています。

東京都東久留米市の会計業務DX

東久留米市は、令和6年3月より「デジタル田園都市国家構想推進交付金」を活用し、会計事務のデジタル化を推進しています。

東久留米市の会計事務DXでは、「見積依頼」「契約」「発注」「納品」「請求」など、事業者との取引に関わる様々な業務をデジタル化し、業務効率の向上と地域全体の生産性向上を図ります。

具体的には、BtoBプラットフォーム「TRADE+契約書+請求書」を導入し、事業者とのやりとりを電子化します。これにより、年間約35,000件にも及ぶ支出伝票処理の効率化や、書類の紛失リスク低減、支払い遅延リスクの軽減などが期待されています。

また、地域事業者にとっても、本システムの活用により帳票の確認や差し戻し、郵送等に伴う業務時間とコストの削減、テレワークの推進、さらにはインボイス制度や電子帳簿保存法への対応が可能となります。

東久留米市は、この取り組みを通じて「地域全体の生産性を高め、人や資金をより高い付加価値を生む業務に分配できるような地域の実現」を目指しています。さらに、電子請求システムを活用する事業者を段階的に拡大し、地域全体のデジタル化を実現することを長期的な目標としています。

この東久留米市の「契約・会計事務のDX」の取り組みは、その先進性が評価され、総務省ウェブサイトにて「地方公共団体における行政改革の優良事例(PDF)」として掲載されています。

東久留米市の取り組み詳細については以下の記事をご参照ください。

地域DXの課題

地域DXを進めるうえでは、まだ課題も残されています。
ここでは、代表的な課題をご紹介します。事前に課題を把握し、手を打つことが重要です。

デジタル人材が不足している

地域DXを推進するうえで、デジタル人材の不足は大きな課題です。IoTやAIなどの先進技術を導入・活用できる人材や、デジタル化を推進するリーダーが不足しています。地域の教育機関と連携した人材育成や、外部人材の登用などが求められます。

データ利活用のための基盤が整備されていない

地域DXでは、さまざまなデータを収集・分析・活用することが重要です。
しかし、データの標準化や互換性の確保、セキュリティ対策など、データ利活用のための基盤整備は十分ではありません。また、個人情報保護と利活用のバランスを取るための制度設計も必要です。

初期の導入コストが高い

デジタル技術の導入には、初期投資と運用コストがかかります。財政状況が厳しい自治体や企業にとって、予算確保は大きな課題です。また、縦割り組織の弊害から、部署間の連携が取れず、デジタル化が進まないケースもあります。トップのリーダーシップのもと、組織体制の強化が求められます。

取り組みの遅れと危機意識の希薄さ

日本の自治体におけるDXの遅れが浮き彫りになっています。企業がデジタル技術を積極的に活用してサービス向上や効率化を図る一方、自治体では従来の手法から脱却できていない状況が見られます。この背景には、デジタル技術への漠然とした不安や、その活用によって実現する未来像を具体的に描けないことがあります。さらに、日本経済の停滞や世界のデジタル化の波に乗り遅れていることへの危機意識が薄いことも要因です。

自治体のデジタル化の遅れは、地域住民や企業の貴重な時間や機会を奪っているにもかかわらず、その問題意識は十分とは言えません。この状況を危機と捉え、積極的にDXに取り組むことが、地域の発展と存続には不可欠です。

自治体のデジタル化は、もはや選択肢ではなく必須の課題です。時代の変化に応じた柔軟な対応と、未来を見据えた積極的な取り組みが今こそ求められています。

地域の未来のための意識改革

急速に変化する現代社会において、科学技術は日々進歩しています。この変革の時代に、自治体や企業など、地域で働き暮らす私たち一人ひとりの行動が、地域の未来を形作る重要な役割を担っています。

いま、地域DXに取り組むことは、地域の未来への投資です。デジタル技術を効果的に活用し、地域の知恵と力を結集することで、誰もが暮らしやすく、活力あふれる地域社会を実現できます。それには、私たち一人ひとりが当事者意識を持ち、具体的な行動を起こすことが不可欠です。

現状に危機感を抱く自治体や企業は、既にDX推進に向けて動き出しています。しかし、その動きにはばらつきがあり、今後はDXに積極的に取り組む地域とそうでない地域との間で、経済や生活の質などさまざまな面での格差がさらに拡大していくことが予想されます。自身の地域が取り残されないためにも、今行動を起こすことが重要です。

地域DXの推進は、住民の生活の質を向上させ、地域の魅力を高めます。さらに、地域経済の活性化と新たな雇用創出の原動力ともなり、暮らしを豊かにする可能性を秘めています。

これらのメリットを享受し、課題を乗り越えるためには、自治体、企業、教育機関など、地域の多様な主体が連携することが不可欠です。私たち一人ひとりが、地域DXの推進者であるという意識を持ち、行動を起こすことが地域の大きな変革につながります。

まとめ:地域DXで明るい未来と新たな可能性を創造する

地域DXとは、デジタル技術を活用して地域の課題を解決し、持続可能な地域社会を実現するための取り組みです。少子高齢化や人口減少、地域経済の衰退など、地域が直面するさまざまな課題に対して、先進技術を導入することで、地域の企業・住民サービスの充実化と業務の効率化を実現できるでしょう。

まずは、デジタル化の第一歩を踏み出すことが重要です。手元の業務を改善することで、本来注力するべき住民サービスの充実化や新たな価値創造に取り組みやすくなります。

地域DXで、日本の新たな可能性を切り開きましょう。

※本記事は更新日時点の情報に基づいています。

監修者プロフィール

松藤 保孝 氏

一般社団法人 未来創造ネットワーク 代表理事
松藤 保孝

自治省(現総務省)入省後、三重県知事公室企画室長、神奈川県国民健康保険課長、環境計画課長、市町村課長、経済産業省中小企業庁企画官、総務省大臣官房企画官、堺市財政局長、関西学院大学大学院 法学研究科・経営戦略研究科教授、内閣府地方創生推進室内閣参事官等を歴任し、さまざまな政策の企画立案、スリムで強靭な組織の構築、行政の業務方法や制度のイノベーションを推進。一昨年退官後、地域の個性や強みを生かすイノベーションを推進する活動を行う。

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