自治体の業務高度化・効率化の 実現方法と事例、進め方も解説

2024/11/05

労働人口が減少する一方、超高齢社会となった日本においては、要介護者の数が増えると予測されています。こうした状況から想像できるのは、企業をはじめ、自治体、さまざまな団体組織における人材不足の深刻化です。なかでも自治体では、増加する高齢者数のケアや医療体制の構築、激動する社会経済情勢に迅速に対応した産業振興の支援や労働環境の整備など、自治体として取り組むべき課題、住民から求められている課題は山積しています。同時に、働き方改革の実現も求められています。そのためには、業務の効率化や業務の高度化が必要不可欠です。

今回は、自治体の業務効率化、処理時間の短縮や正確性の向上、業務の高度化などの必要性を確認し、その実現の効果的な方法や成功事例、業務効率化を図る際の注意点などを紹介します。

自治体の業務効率化や高度化はなぜ必要なのか

自治体の業務効率化の必要性を考えるにあたり、まず自治体を取り巻く社会情勢の変化を見ておきましょう。

少子高齢化を起因とする生産年齢人口の減少

まず自治体は、国や他の自治体との役割分担を調整しつつ、まちづくりを推進し、社会福祉を提供するなど、地域住民へのさまざまな行政サービスを提供しています。また、地域企業のサポートも自治体が担う役割のひとつです。たとえば、企業への補助金の提供や誘致支援等も行っています。さらに、観光資源を活用して、観光客の誘致、地域の魅力を発信して地域の活性化につながる事業の支援なども行っています。

こうした自治体の業務の全てが少子高齢化を起因とする生産年齢人口の減少によって、質・量ともに担保できない状況に追い込まれるかもしれないと懸念されています。

人材確保の困難化

少子高齢化や人口減少が進む中で、人材確保はますます難しくなっていきます。一方、高齢者支援にかかわる対応をはじめ、業務の多様化・複雑化は進み、より専門的な高度な業務を行う人材確保の必要性は高まると考えられます。また、社会全般に多様な働き方へのニーズも高まっています。こうした自治体を取り巻く情勢の変化は人材確保を継続的に、安定して実現する必要性を示しています。しかし少子化によって人材確保は難しくなるでしょう。

このように自治体を取り巻く情勢変化に対応するためには、限られた職員数でも効率的かつ質の高い業務を遂行し、持続可能なかたちで行政サービスが提供できる体制づくりが必要です。その一環として、業務効率化は必須といえます。

自治体の働き方改革やテレワークへの取組については次の記事が参考になります。

スマート自治体への転換

さらに政府が示す「スマート自治体」への転換を受けて、各自治体では現在の業務を見直し、データを効果的に連携・活用して地域住民や地域企業の利便性を高めるための取り組みを進める必要があります。その取組のひとつに業務プロセスを標準化・効率化することが重要視されています。

自治体が業務効率化を実現する方法

自治体が業務効率化を実現するためには、どのような方法が効果的なのでしょうか。具体的な方法を確認していきましょう。

業務のムダ・ムリ・ムラを洗い出す

現状の業務を見直し、課題を洗い出します。たとえば、「何度も同じ作業を繰り返す業務のムダ」「一定の期間に作業が集中し、時間内に遂行できない業務のムリ」「住民からの同様の質問に、担当者によって返答の仕方が異なる業務のムラ」などを現場の状況を確認しながら、すべて明確にします。このムダ、ムリ、ムラは、職員の皆様それぞれが、自分以外にその業務をできる人が大勢いる、企業や他の自治体ではもっと楽な方法で業務をやっている、的確な処理をするためにはマニュアルや本を読んで覚えなければならないといった、基準で判断することができます。

業務の課題をデジタル化することで解消できるもの、あるいは担当者が対応すべき業務等に仕訳をし、デジタル化する業務の優先順位を決めます。

そのうえで、課題解決のために必要な機能を搭載したツールやシステムを導入します。

次は、課題解決を図るために導入する、具体的なツールやシステムとして代表的なものです。実際に導入・活用をし、成果を出している自治体例も紹介しましょう。

ICTを活用する

ICTというのは情報通信技術といわれるもので、情報を共有したりコミュニケーションを充実させたりするために活用される技術です。ICT技術の活用により、庁内情報を連携させ、総合窓口やコンビニでの各種証明書交付が実現可能になります。

こうした環境を実現できれば、職員が窓口で対面業務として行っていた部分が簡略化されることにもつながりますし、地域住民の利便性も高まります。

自治体事例:

群馬県川場村:低コストの地理情報システムを活用して、生産性の向上を図る

群馬県川場村では、頻発する自然災害や鳥獣被害への対策をするために、業務が年々増加傾向にありました。加えて水道管や消火栓等の老朽化インフラの更新・管理業務も増大しており、限られた人員での課題対処が困難になっていました。そのため、外部の企業と協働で業務効率の向上を目指し、White Mapを活用する取り組みを開始しました。
White Mapは低コストの地理情報システムです。地理情報システムというのは、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータを総合的に管理・加工して、視覚的に表示させ、高度な分析や判断を迅速化することに役立てられる技術です。White Mapを活用することで、1つの資料作成をするのに必要な枚数と時間が8割程度削減できました。

福島県伊達市:Ap-Portalを導入して市民の安全な暮らしを守る防災アプリを提供

福島県伊達市では防災アプリを市民に提供しています。Jアラート、地震情報、気象情報などをプッシュ通知で発信して、最新の防災情報を市民が把握できるようにしています。また、防災無線聞き逃しサービスも追加したほか、日本語だけではなく、英語でも情報提供をして外国人居住者にも正しい情報を届ける工夫をしています。

RPAを活用する

RPAというのはソフトウェアロボットを活用して作業を自動化するための技術です。たとえば、庁内業務のなかで、定型の単純作業であるデータ入力やダブルチェック作業などを自動化して、人的リソースの有効活用ができる環境を整えるために活用できます。

自治体事例:

兵庫県伊丹市:入力作業にRPAを導入。21業務で年間830時間の労働時間を削減

兵庫県伊丹市では、単純なシステム入力作業が多く、繁忙期には職員が長時間労働を行い、なんとか業務をこなしている状態でした。
そこで効果が実感できると判断した市民税課でのRPA導入を決定し、個人住民税に関する資料から読み取ったデータをExcelに入力する作業をRPAによって自動化しました。また、基幹システムの情報を確認しやすく加工する作業もRPAで自動化しています。
こうしたRPA導入の結果、合計21業務において、年間830時間の削減が実現できました。

新潟県長岡市:RPAによる効率化で年間4,136時間の労働時間を削減

新潟県長岡市は全庁でアンケートを実施し、約300の課題を洗い出しました。反復作業が多く、業務の効率が落ちている事例等、RPAを導入することで改善が図れる業務が確認されたため、試験導入を実施。庁内の6課25業務において、かなりの業務時間がRPAで自動化できることが実証できたことで、本格導入へと進めました。自動化したのは検診予約受付、健診結果通知、ネット予約者登録、各種健診受診者情報と診療結果入力、訪問指導に用いる資料作成などです。最終的に、庁内の7課18業務で年間4,136時間の時短が実現できました。こうした改革は、職員の負担軽減のみならず、住民が行政サービスを受けるための待ち時間や対応の品質の改善にもつながっていると実感できています。

AIを活用する

AIというのは、人工知能とよばれるもので、人間の判断を必要とせずに自動的に判断をして作業を実行できるシステムをさします。さまざまなレベルのAIが存在しますが、機械学習によって、多くのデータを活用し、さらに実行回数を経ることでより的確な状況判断ができるようになるAIもあり、多くの自治体が導入をはじめています。たとえばAIチャットボットを導入して、地域住民からの問い合わせが24時間、どこからでも受け付けられる問い合わせ対応や、資料文書の作成補助などに活用されています。AIを活用することで、業務内容レベルによって効率的に仕訳ができ、職員が全ての対応に追われていた直接対面業務から、より高度な対応が必要な業務へとシフトできる体制が構築できます。

自治体事例:

沖縄県沖縄市:AIチャットボットを導入して問い合わせ対応を効率化

沖縄県沖縄市では、住民から寄せられるさまざまな問い合わせに職員が対応していました。問い合わせの対応時間が限られているため、電話が殺到します。職員だけでは対応をこなすことができず、問い合わせできなかった住民は不満や不便さを感じる状況でした。そこで24時間365日自動で応答できるAIチャットボットを導入したのです。全体の40%が受付時間外であったことも判明し、自動受付にしたことの効果と住民の利便性向上が実感された結果となりました。

愛知県豊橋市:介護サービス計画(ケアプラン)の作成にAIを導入。機械学習によって質の高いケアプラン作成を実現

愛知県豊橋市では、要介護認定者等の介護サービス計画(ケアプラン)の作成にAIを導入しました。従来、ケアマネーシャーがひとつひとつ状況把握をしてケアプランを作成していたのですが、人材不足などもありケアマネージャーの負担が大きくなっていました。そこでAIにいままでのケアプランを学習させ、データをもとにケアプランを作成させることにしました。AIが作成したものは、ケアマネージャーが確認をし、修正をします。また、修正したケアプランをさらにAIに学ばせることで、使うほどに質の高いケアプランの作成が可能となっています。
AIが作成したケアプランを使用する際は再度ケアマネージャーが確認をし、適切に修正をしたうえで使用をしています。

自治体が業務効率化を進める際の注意点

自治体が業務効率化を進める際の注意点

職員の業務負担を軽減し、作業を効率化させることで、より高度な対応が必要な業務に人的リソースが割ける環境を構築する目的で業務効率化は進められます。しかし、一方で、現場での受け入れがスムーズにいかない場合もあり、なかなか業務効率化が進まないのも事実です。

業務効率化を進める際の注意点を確認しておきましょう。

現場職員とのコミュニケーションを取りながら進める

業務を効率化するということは、既存の業務フローを変えることでもあります。デジタルツールを導入したり、システムを入れて他の業務と連携させたりするなどの変更もあるかもしれません。こうした変更には抵抗感を抱く職員もいます。従来のやり方には、これまでの知恵が積み重なっている場合もあります。新しいフローを覚えるのが面倒だと思う職員もいらっしゃるかもしれません。また、デジタルツールの扱いに不安を抱いている職員は、デジタル化に対して抵抗があるのかもしれません。こうした状況を避けるには、業務効率化に取り組む最初の段階で、その効果や目的を正しく伝え、住民にとっての、また職員にとってのメリットに対する理解と認識を一致させておくことが大切です。また、デジタル化IT化を進める際には、導入するツールやシステムの操作について講習会を開いたり、使い勝手の意見を交換したりする機会を設けることも重要です。

優先順位の高い業務課題から解決を図る

業務遂行において課題を洗い出し、解消すべき課題から効率化を図ります。優先順位の決め方としては、住民の皆様へのメリット、担当職員の方々へのメリット、予算上のメリット、取りかかりやすさ、効果が見えやすいか、効果を職員が実感しやすいかなど、さまざまな要素があります。

最初から難しく時間がかかる課題や、効率化を図っても職員や住民にとって効果が実感されにくい課題では、職員の業務効率化へのモチベーションが下がるおそれもあります。

民間企業や他の自治体の事例を参考にする

現状で、多くの企業がDXを推進し、仕事のやり方や働き方を改革し、新たな商品やサービスの開発が進んだ、利益が増加した、職員の採用が楽になった、働き方改革が実現し暮らしや人生が楽しくなったといった成果が出ています。多くの自治体も、それぞれの業務の高度化や業務効率化への取り組みを進めています。さまざまな企業や他の自治体がどのような課題に対してどのように変革をしていったのかを調べ、ヒントにすることで、より適切な取り組みが実行できます。

成果の出やすい業務から取り組み、成功例を庁内で共有しながら、業務効率化の業務範囲を拡大していく

上記でも紹介したように、業務の高度化や業務の効率化の活動やその成果を情報共有します。また業務効率化を図ったのちも定期的に効果を評価して、改善を繰り返していきましょう。

実施、振り返り、修正、再実施を繰り返しながら、徐々に効率化を図る業務を広げていくことで、継続的な取り組みへと定着していきます。

まとめ:地域の魅力を高め、住民や企業の利便性を向上させる自治体を目指すには、自治体業務の高度化と効率化実現がカギ

少子高齢化の影響で職員の確保が難しくなるなか、業務の複雑化、増加、また、膨大なデータを安全に扱う必要性のある自治体においては、業務を効率化し、限られた人材でも高品質な行政サービスを提供していかなければなりません。高度で効率的な業務体制を構築するには、最先端のテクノロジーを活用し、既存の業務フローを見直し、高度化と効率化を図ることが重要です。

自治体それぞれに異なる課題が存在しますが、デジタル化を進めることで、多くの課題が解消できるはずです。

たとえば、インフォマートが提供するBtoBプラットフォームを導入することで、受発注から請求書までをデジタル化することが可能となり、煩雑な伝票を集約できるほか、取引先と直接共有することもできるようになります。データの共有ができることで、紙ベースでのやり取りで発生しがちな記入ミスや郵送作業が削減できる可能性もあります。

自治体で優先して解消すべき課題を明確化して、どういった方法が最適なのかを検討しながら、スマート自治体の理想的な姿を実現するために、業務の高度化と効率化への取り組みを進めていきましょう。

※本記事は更新日時点の情報に基づいています。

監修者プロフィール

松藤 保孝 氏

一般社団法人 未来創造ネットワーク 代表理事
松藤 保孝

自治省(現総務省)入省後、三重県知事公室企画室長、神奈川県国民健康保険課長、環境計画課長、市町村課長、経済産業省中小企業庁企画官、総務省大臣官房企画官、堺市財政局長、関西学院大学大学院 法学研究科・経営戦略研究科教授、内閣府地方創生推進室内閣参事官等を歴任し、さまざまな政策の企画立案、スリムで強靭な組織の構築、行政の業務方法や制度のイノベーションを推進。一昨年退官後、地域の個性や強みを生かすイノベーションを推進する活動を行う。

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