7つの先進事例から学ぶ自治体DX。 課題や成功のポイントも解説

2025/03/04

自治体DXとは、デジタル技術を活用して、住民サービスの向上と行政運営の効率化を図る取り組みです。人口減少や高齢化など、自治体を取り巻く社会環境が大きく変化するなか、DXは自治体経営の重要な柱のひとつとなっています。

しかし、DXを進めるうえでは、人材不足やスキル不足、予算の制約、既存システムとの調整など、さまざまな課題が立ちはだかります。こうした課題をどう克服し、DXを成功に導くことができるのでしょうか。

本記事では、自治体DXの先進事例を紹介しながら、自治体DXの意義や必要性、課題、成功のポイントを解説します。変革の旗手として、自治体DXに取り組む全国の自治体職員の皆様の一助となれば幸いです。

自治体DXとは

事例をご紹介する前に、まずはあらためて自治体DXの概要を見ておきましょう。

自治体DXとは、デジタル技術を活用して、自治体の行政サービスを変革し、住民の利便性向上と行政の政策立案力の向上と行政の効率化を図ることを指します。

行政手続きのオンライン化やデータの利活用を通じて、住民及び地域の企業にとって利用しやすく、利便性の高いサービスの提供を目指します。また、行政内部の業務効率化を図ることで、職員の時間とエネルギーを政策立案に活用でき、政策立案力の向上と、コスト削減や、職員の負担軽減につなげることも目的のひとつです。

自治体DXは、単なるデジタル化ではなく、自治体の在り方、地域のあり方、地域の住民や地域の企業の未来そのものを変革する取り組みだと言えるでしょう。

自治体DXの進め方や取り組むべき重要事項については次の記事が参考になります。

自治体DXの先進事例集

1. 埼玉県さいたま市の事例

さいたま市では、市民サービスの向上とデジタル化を推進するため、「さいたまデジタル八策」を策定し、これに基づいてDXを進めています。市民の利便性を高めるべく、すべての行政手続きのオンライン化を目指しており、「電子申請・届出サービスの対象拡大」やキャッシュレス決済の対象拡大」に取り組んでいます。

また、庁内の業務効率化においても積極的で、以下のような取り組みが進められています。

  • AI-OCR・RPAの活用による入力事務や審査事務の自動化
  • 財務会計システムの再構築
  • テレワーク環境の整備
  • デジタル人材育成のための職員研修の充実

なかでも、テレワーク実施者については令和7年度までに70%以上とすることを目標としており、市全体の改善に取り組んでいる好例と言えるでしょう。

2. 大分県大分市の事例

大分市では、DXを進めるために「大分市情報化推進計画アクションプラン2022-2024 -Oita City DX」を策定し、市の情報化の取り組みを着実に推進できるような仕組みを構築しました。

具体的には、住民サービスの向上に向けて、オンライン化の推進やオープンデータの推進、マイナンバーカードの普及・活用に取り組んでいます。

さらに、庁内業務の効率化を図るため、以下のような取り組みも実施しています。

  • テレワークの推進
  • 電子決済の導入拡大による事務の効率化
  • 防災システムの構築
  • 職員のデジタル人材育成
  • 情報セキュリティ体制の充実

一方、地域の企業に対しては、ICT関連企業の誘致やIT化促進セミナーの実施など、ICT活用の支援に取り組んでいます。
住民サービスの向上と行政サービスの効率化だけでなく、地域産業の活性化にも取り組み、地域全体のデジタル化を見据えた施策といえるでしょう。

3. 東京都町田市の事例

東京都町田市では「町田市デジタル化総合戦略2023」の中で、DX推進の戦略を公開しています。

そこで、2040年に向けた町田市のデジタル化戦略として、以下3つの基本指針を掲げました。

  • デジタル技術を活用した市民サービスの向上
  • デジタル技術を活用した生産性の向上
  • デジタル技術を活用した新たな価値の創出

上記を実現するために、「クラウドサービスへのシフト」や「20の基幹業務システムの標準化」など、身近な業務のデジタル化から進めています。

また、庁内業務の効率化においては、アプリやオフィスソフト、RPAの活用によるアナログ業務の自動化推進にも注力しています。全庁的なデジタル化支援体制の強化とデジタル人材の育成にも取り組みました。

さらに、生成AIをはじめとしたトレンド技術も導入しています。生成AIについては、株式会社NTTデータと連携協定を締結し、市民向けオンラインサービスの利便性向上や業務改革に積極的に取り入れていく方針です。同時に、AIの安全な利活用に向けたガイドラインの策定にも連携して取り組みます。

町田市のデジタル化戦略は、最新テクノロジーを積極的に取り入れ、行政業務の効率化を図りながら、地域課題の解決につなげる挑戦的な成功事例として参考になるでしょう。

4. 大阪府大阪市の事例

大阪府では「サービスDX」「都市・まちDX」「行政DX」の3方向からDXを進めています。

サービスDXでは、デジタル行政手続きの拡大やキャッシュレスの導入により、ストレスを感じさせない窓口サービスの実現に取り組んでいます。

また、都市・まちDXでは、IoTで膨大なデータを収集し、AIでそのデータを学習・分析するなど、テクノロジーを積極的に活用。これにより、防災対策や混雑回避など、より快適なまちづくりを推進しています。

さらに行政DXでは、自治体の経営自体を改善するべく、積極的にデジタル技術を活用することで、業務の変革と生産性の向上に努めています。具体的に実施している取り組みは以下のとおりです。

  • アナログ業務のルールや必要性の見直し
  • 情報システムの標準化
  • ノーコードツールを活用したシステムの内製化

労働人口減少の問題に対応するため、業務の省力化や効率化を積極的に推進する姿勢を見せています。

大阪府のDXの取り組みは、住民サービスの向上、まちづくりの高度化、行政運営の効率化という3つの側面から、総合的にデジタル化を推し進める優れた事例だと言えるでしょう。先進技術を駆使しながら、住民の利便性と地域の発展を同時に実現する挑戦は、ほかの自治体の参考になる先進的な取り組みだと考えられます。

5. 大阪府豊中市の事例

豊中市は、大阪府内で特に先進的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している自治体のひとつです。

豊中市のDX推進の原動力となっているのが「とよなかデジタル・ガバメント戦略2.0」です。この戦略は、市民の暮らしや社会経済活動をデジタル技術で便利にすることを目標に掲げており、デジタル化や暮らしやすいまちづくりに取り組んでいます。

行政では、端末統合や仮想環境、クラウドの利用を進め、生産性の向上に向けて取り組みを進めています。また、データを利活用することで、効果的なサービスの創造や意思決定も実現しました。

データの利活用を中心とした業務改革事例として参考になるのではないでしょうか。

6. 広島県広島市の事例

人口減少・少子高齢化の影響で、広島市でも地域コミュニティの低下やライフスタイルの多様化への対応などさまざまな問題に直面していると言えます。このように日々変わり続ける世の中に対して、デジタルツールを活用した対策を目指しています。

具体的には、RPA、AI、ローコード・ノーコードツールの導入による定型業務の自動化や情報のデジタル化・ペーパーレス化を実施中です。また、テレワークを支える庁内ネットワーク環境の強化にも取り組んでいます。

一方、地域の企業のデジタル化支援では、自動車関連企業へのIT導入支援アドバイザーの派遣、建設現場におけるICT活用工事の導入支援を実施しています。企業の支援にも積極的で、地域全体でのデジタル化の基盤づくりに着手する計画です。

7. 三重県の事例

三重県におけるデジタル社会の定義は「デジタルが社会に浸透することによって、誰もが、直接的、間接的にデジタルの恩恵を受けることができる社会」です。誰もがデジタルの恩恵により住みやすい街を作れるよう、「暮らし」「しごと」「行政」のDXを進めています。

「暮らし」のDXでは、災害対策として、避難経路のデジタルマップを作成したり、若年層の不安に寄り添うべくSNSの相談窓口を設置したりと幅広い取り組みが行われています。「しごと」のDXにおいては、各企業でDX人材育成研修を実施することで、DX人材の増加を目指す取り組みにも積極的です。「行政」では、コミュニケーションやセキュリティ、データ活用において、DX推進基盤を新たに構築することでDXの実現を目指します。

また、地域企業のデジタル化支援では、農林水産業へのスマート技術の導入支援や県内事業者の生産性向上に向けた設備投資への投資も行っています。県内各地域の多様な実情を踏まえ、きめ細かなDX推進施策を展開することで、県民誰もが恩恵を受けられる「あったかいDX」の実現を目指します。

自治体DXの課題

自治体DXの課題

自治体DXを進めるうえでは、さまざまな課題も存在します。

まず、人材不足とスキル不足が挙げられます。DXを進めるためには、デジタル技術に関する専門的な知識やスキルを持った人材が不可欠です。しかし、多くの自治体では、そうした人材が不足しているのが実情です。さらに、既存の職員のデジタルスキルの向上も課題となっています。

また、組織文化の壁も課題のひとつでしょう。自治体には、長年にわたって築かれてきた組織文化があります。そのなかには、変化を好まない風潮や、前例踏襲主義的な考え方も根強く残っています。ミスしてはいけないという思いも強く、仕事のやり方を変えることに慎重になりがちです。こうした組織文化の壁を乗り越えることも、DXを進めるうえでの大きな課題のひとつです。科学技術が進歩しているにもかかわらず、従来の制度ややり方を続けることは、住民の皆様に、不必要な大きなコストを負担させています。

加えて、予算の確保やセキュリティ問題もDXを進めるうえでは、壁となる可能性があります。

こうした課題を一つひとつ解決していくことが、自治体DXを成功に導く鍵となります。課題を正面から受け止め、知恵を絞って乗り越えていくという地道な努力の積み重ねが、DXの実現につながるのです。

自治体DXを成功させるポイント

前章で解説した課題を乗り越え、自治体DXを成功させるには以下のようなポイントを実践する必要があります。

  • トップのリーダーシップと強力な推進体制の構築
  • 職員のデジタルスキル向上と意識改革
  • 利用者視点に立った行政サービスの設計

ひとつずつ見ていきましょう。

トップのリーダーシップと強力な推進体制の構築

自治体DXを成功させるためには、トップはもちろん幹部職員の強力なリーダーシップが不可欠です。トップ等自らがDXの意義を理解し、推進に向けた明確なビジョンを示しましょう。

また、そのビジョンを実現するための推進体制の構築も欠かせません。専門部署の設置や、外部人材の登用など、DXを強力に推し進める体制を整える必要があります。

加えて、各部署の積極的な関与も重要です。DXは一部の部署だけの取り組みではなく、組織全体で推進すべきものです。部署間の連携を強化し、全庁的な取り組みとして進めていくことが求められます。

職員のデジタルスキル向上と意識改革

DXを進めるうえで、職員のデジタルスキルの向上は欠かせません。デジタル技術に関する研修の充実や、外部人材との交流、専門的な企業への業務委託などを通じて、職員のスキルアップを図ることが重要です。

また、デジタル化に対する職員の意識改革も必要です。デジタル化を単なる業務の効率化ではなく、住民サービスの向上につながるものだととらえ、前向きに取り組む姿勢が求められます。デジタル技術が発達する前に作られた既存の制度や仕事のやり方が、住民や地域の企業の皆様に、不必要な多大の負担をかけており、地域住民や企業の活性化や生産性向上、イノベーションの支障になっている面も意識する必要があります。

管理職には、デジタル化の意義を部下に浸透させ、変革を推進するリーダーシップが求められます。一方、現場の職員には、デジタル化の必要性や政策立案業務に時間とエネルギーをかける重要性を訴え、デジタル技術を活用して業務を改善する主体性が求められるでしょう。

こうした意識改革には、地道な取り組みの積み重ねが欠かせません。職員一人ひとりがデジタル化の当事者であるという意識を持ち、日々の業務のなかで、できることから少しずつ変革を進めていく。そうした積み重ねが、組織全体の変革につながっていくのです。

利用者視点に立った行政サービスの設計

自治体DXの目的は、住民や地域企業の利便性向上と行政の政策立案力の向上と効率化です。この目的を達成するためには、行政サービスの設計に当たって、利用者の視点に立つことが重要です。

例えば、行政手続きのオンライン化を進める際には、単に紙の申請書をそのままデジタル化するのではなく、利用者にとって、よりわかりやすく、使いやすいものに再設計することが求められます。

また、高齢者やデジタル機器の利用に不慣れな人への配慮も欠かせません。オンラインでの手続きが難しい人のために、対面での手続きを残したり、相談窓口を設けたりと、利用者の多様なニーズに応える工夫が必要です。

さらに、行政サービスの設計に当たっては、科学技術の進歩や民間企業の事例、利用者の声を積極的に取り入れることも大切です。アンケート調査やワークショップの開催など、利用者との対話を重ねることで、真に求められているサービスの姿が見えてくるはずです。

利用者視点に立った行政サービスの設計は、DXを進めるうえでの基本中の基本だと言えます。

まとめ:先進事例に習って自治体DXを進めよう

自治体DXは、デジタル技術を活用して、住民や地域企業のサービスの向上と行政の政策立案力の向上と行政運営の効率化を図る取り組みです。人口減少や高齢化など、さまざまな社会的課題に直面するなかで、DXは自治体経営の重要な柱のひとつとなっています。

自治体DXを成功させるには、トップのリーダーシップ、管理職のリーダーシップ、職員のデジタルスキル向上、利用者視点の重視、自治体間連携などが鍵だと言えます。

DXは、単なるデジタル化ではなく、自治体の在り方や地域のあり方そのものを変革し、地域の住民や企業の可能性を大きく広げ、未来を拓く取り組みです。一歩一歩着実に、そして大胆に変革を進めていくこと。それが、これからの自治体に求められているのではないでしょうか。

こうした変革を実現するために、まずは自治体DXの第一歩として、庁内のデジタル化から始めてみませんか。内部事務を効率化することで、住民サービスの向上により注力できます。業務の質向上や短期解決、新規案件への着手も迅速に進められるようになります。

最近では庁内のデジタル化として帳票のデジタル化を目的に「BtoBプラットフォーム」を導入する自治体が増えています。インフォマートでは、25年間で100万社以上のDXをサポートしてきた実績とノウハウをもとに、導入から運用まで充実したサポート体制を整えております。豊富な導入事例と共に、お客様のお困りごとに合わせたご提案をさせていただきます。

※本記事は更新日時点の情報に基づいています。

監修者プロフィール

松藤 保孝 氏

一般社団法人 未来創造ネットワーク 代表理事
松藤 保孝

自治省(現総務省)入省後、三重県知事公室企画室長、神奈川県国民健康保険課長、環境計画課長、市町村課長、経済産業省中小企業庁企画官、総務省大臣官房企画官、堺市財政局長、関西学院大学大学院 法学研究科・経営戦略研究科教授、内閣府地方創生推進室内閣参事官等を歴任し、さまざまな政策の企画立案、スリムで強靭な組織の構築、行政の業務方法や制度のイノベーションを推進。一昨年退官後、地域の個性や強みを生かすイノベーションを推進する活動を行う。

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