不動産業界の人材不足を解決するには？
採用と業務改革の具体策を徹底解説

厚生労働省の調査によれば、不動産業界の離職率は2021年の11.4%から2022年には13.8%へと上昇しています。具体的な数字では、2021年は入職者87.2万人に対し離職者90.7万人、2022年は入職者146.4万人に対し離職者109.7万人と、人材の流動性が高まっています。

参照：厚生労働省『令和4年雇用動向調査結果の概況』

国土交通省の「不動産ビジョン2030」によれば、不動産業界では60代以上の経営者が50%以上を占める一方で、後継者不在の企業が68.9%に達しています。この状況は、事業承継の問題だけでなく、組織の新陳代謝や業務革新の遅れにもつながっています。若手人材の育成と登用が進まないことで、業界全体の活力低下を招いている要因の一つとなっています。

参考：国土交通省『不動産業ビジョン2030 参考資料集』

不動産業界の労働時間は、他業種と比較して長時間化する傾向があります。物件の内見対応や契約業務が休日や夜間に集中することも多く、労働時間の平準化が難しい実情があります。また、繁忙期には業務が著しく増加し、ワークライフバランスの確保が困難になるケースも少なくありません。

「2023 不動産業統計数」によれば、平成26年度から令和3年度にかけて不動産業界の法人数は毎年1.3～4.3%ずつ増加しています。この状況下で優秀な人材の獲得競争は一段と激化しており、特に経験者の採用は非常に困難です。また、異業種からの転職者も増加傾向にありますが、業界特有の商慣習や専門知識の習得に時間を要するため、即戦力として活用することが難しい場合もあります。

参考：公益財団法人 不動産流通推進センター『2023 不動産業統計数』

不動産営業の業務は、物件案内から契約業務、アフターフォローまで多岐にわたります。一人の営業担当者が抱える業務量は膨大で、専門性の高い業務と事務作業の両方をこなす必要があります。このような業務負担の多さは、新人育成の障壁となるだけでなく、中堅社員の疲弊や離職にもつながっています。特に、物件情報の収集・更新、重要事項説明書の作成、契約書類の管理など、専門知識を要する業務の負担は大きく、業務効率化が急務となっています。

不動産業界の給与体系は、基本給と歩合給を組み合わせたものが一般的です。高い収入機会がある反面、収入の不安定さや過度な成果主義がストレスを生んでいます。特に、経験の浅い社員にとって、安定した収入の確保は切実な問題です。また、歩合給重視の給与体系は、チーム全体のパフォーマンスよりも個人の成果を重視する傾向を生み、組織の一体感を損なう要因ともなっています。

不動産取引では、個人情報や機密性の高い情報を多く扱います。このため、業務のデジタル化やリモートワークの導入には慎重な対応が求められます。セキュリティの確保と業務効率化の両立は、業界全体の課題となっています。特に、重要事項説明書や契約書類など、法的要件を満たす必要がある書類の電子化には、技術面での課題に加えて、法制度上の制約も存在します。

働き方改革関連法の本格適用に伴い、不動産業界では労働時間管理の厳格化が求められています。しかし、従来の業務フローや人員配置では法令遵守が難しく、結果として従業員の負担が増加し、離職率の上昇を招いています。さらに、繁忙期における人員不足や業務の平準化の難しさ、休日取得の推進が進まないことが、新たな人材確保のハードルを高めています。これらの課題が業界全体での人手不足を一層深刻なものにしています。

従来の求人サイトだけに頼らない、SNSを活用した採用活動が注目を集めています。InstagramやXなどのプラットフォームにより、企業の日常や社風をリアルに発信することができるので、社員の生の声や実際の業務風景、社内イベントの様子など、求職者が知りたい情報を効果的に届けられます。特に若手求職者は、企業選びの際にSNSをチェックする傾向が強いため、採用に特化したアカウントを開設し、定期的な情報発信を行うことで、採用母集団の拡大が期待できるでしょう。

人材確保には複数の採用チャネルを効果的に組み合わせることが重要です。新卒採用では、インターンシップの実施や学校との連携強化により、業界や仕事への理解を深めた学生の採用につげやすくなるでしょう。中途採用では、人材紹介会社の活用により、即戦力となる経験者の採用が可能です。さらに、副業・兼業人材の活用も選択肢の一つです。特定の業務や繁忙期に限定して専門人材を活用することで、柔軟な人員体制を構築できます。

社員の定着率を高めるには、入社後の育成体制の整備が欠かせません。体系的な研修プログラムの構築や、先輩社員によるメンター制度の導入により、新入社員の不安を軽減し、早期戦力化を図ることができます。また、中長期的なキャリアパスを明示し、段階的な育成計画を立てることで、従業員の将来展望を明確にします。評価制度も重要です。成長に応じた適切な評価と報酬により、モチベーションの維持・向上につながります。

人材の定着には、競争力のある待遇と働きやすい職場環境が不可欠です。固定給と歩合給のバランスを適切に設計し、安定性とインセンティブを両立させた給与体系を整備しましょう。また、有給休暇の取得促進や残業時間の削減など、ワークライフバランスに配慮した職場づくりも重要です。育児・介護との両立支援制度や資格取得支援など、従業員のライフステージに応じた福利厚生の充実も、選ばれる企業となるための重要な要素といえます。

不動産業務のデジタル化は、人材不足解消の切り札となります。物件情報の一括管理システムや顧客管理ツールの導入により、これまで手作業で行っていた業務を大幅に効率化できます。特に注目したいのは、AI技術を活用した業務支援です。物件写真の自動補正や間取り図の作成支援、問い合わせ対応の自動化など、専門性の高い作業も効率的に進められます。さらに、VR技術を活用した物件内見システムやオンライン商談の導入により、営業担当者の移動時間を削減し、より多くの顧客対応が可能になります。

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業務の一部を外部に委託することで、社員は本来注力すべき核となる業務に専念できるようになります。アウトソーシングに向いている業務として、物件データの入力作業、物件写真の加工、広告制作などです。これらは専門性は必要ですが、定型的な作業が中心となるため、外部委託に適した業務だといえます。

また、電話応対や簡単な問い合わせ対応なども、外部のコールセンターを活用することで、営業担当者の負担を軽減できます。ただし、アウトソーシングを進める際は、コストと効果のバランス、情報セキュリティの確保、品質管理の方法などを十分に検討する必要があります。

個人の業務負担を軽減するには、組織体制の見直しも効果的です。例えば、営業担当者が全ての業務を抱え込むのではなく、内見案内専門、契約手続き専門といった役割分担を明確にすることで、業務の効率化と専門性の向上が図れます。また、チーム制を導入することで、経験の浅いメンバーをフォローしながら、組織全体のパフォーマンスを上げることができます。さらに、繁閑の差が大きい不動産業務では、部門間の連携を強化し、柔軟な人員配置を可能にすることも重要です。

業務の効率化には、日々の業務プロセスを見直し、改善する仕組みづくりが欠かせません。成功事例や業務のノウハウを組織内で共有し、標準化することで、個人の経験や能力に依存しない業務遂行が可能になります。また、定期的な業務改善会議の開催や、現場からの改善提案制度の導入により、継続的な業務効率の向上を図ることができます。特に重要なのは、これらの取り組みを一時的なものとせず、組織の文化として定着させることです。