「町のパン屋さん」が人気ベーカリーに至るまで
【Q】82年の歴史があります。どのような成り立ちだったのでしょう?
現在の社長が3代目になりますが、祖父に当たる創業者が地元熊本の多良木町に昭和14(1938)年に開業しました。当時はおまんじゅうやボーロ、あめなどを手作りして、町の商店さんに卸売りをしていましたが、戦後になって学校給食の始まりとともにパンを焼き始め、給食の指定工場になりました。店舗ではパンやお菓子を売りながら、近所の商店や学校給食のパンの卸を主に取り扱ってきました。
現代となって人吉・球磨地域では過疎化が進み、パンの卸だけでは経営が難しくなってきました。そこで15年前にパンのほかにケーキや洋菓子を扱う姉妹店の「ナチュラル」を出店したのです。


当時は大手のパンメーカーが「フランスパン」として出しているソフト系のパンが一般的で、現社長が東京で修行を積んで習得したバゲットをはじめとするハード系のパンはなかなか受け入れてもらえませんでした。お客様の好みにあわせたり、地元産の原材料を使ったりと工夫をこらしながら、バゲットだけでなく、惣菜パンや菓子パン、サンドイッチなどを扱って、試行錯誤を繰り返しつつ展開していきました。
それが徐々に受け入れられるようになり、少しずつですがお客様に来ていただけるようになったと思います。
【Q】その後に「パン・オ・ルヴァン」の出店となるわけですね。
現社長の、自分が学んできたハード系のパンへの思いは強くて、やはり自分たちの作りたいもの、表現したいもの、お客様に食べていただきたいものを作っていこうと、思い切って10年前に出店したのが「パン・オ・ルヴァン」でした。
熊本の中でも創業地の人吉・球磨は特に焼酎文化の根強い地域で、主食はやはりお米が中心です。もちろんパン食は当たり前ではありますが、本格的なハード系パンの文化が定着していくにはまだまだ余地があると感じていました。
お客様にはパンってもっと奥深いものなんです、いろんな食材とあわせて食べるとおいしいですよという思いを発信したかったのです。そこで店舗ではハード系のバゲットだけでなく、デニッシュやサンドイッチなど多様なパンのほか、ワインやチーズ、ジェラートなども販売しています。食材の提供というより、食卓を提案するという発想です。おかげさまで、コアなファンの方々ができ、地域の人に愛されるようになってきたと感じています。

【Q】その結果、今年4月、JR熊本駅にオープンした駅ビル「アミュプラザ」に出店されました。
とてもありがたいお話でした。10年間「パン・オ・ルヴァン」というブランドを育ててきて、それが認知されたことも喜びですし、熊本の玄関口で発信できるという、とてもいい機会をいただいたと考えています。
何よりも自分たちがパンのある食事のシーンが好きですし、楽しいと感じてきました。そういう楽しみ方をお客様に知ってもらいたいという思いに尽きます。それが理解されたことがうれしいし、今後も新たな楽しみ方を提案していかなくてはならないという重圧も感じています。
