食中毒事故や行政処分のリスクを回避し、店舗の信頼を守るために、飲食店にも「HACCP(ハサップ)」に基づく衛生管理が義務化されました。しかし現場では「何から手をつければいいのかわからない」「多店舗でも全店対応が必要なのか?」といった戸惑いの声も少なくありません。特に多店舗展開している飲食チェーンでは、全体を統括する仕組みやルールの標準化が求められます。
そこで今回は、HACCP義務化の背景から未対応によるリスク、そして実効性ある運用体制の整え方まで、ポイントを網羅的に解説します。HACCP対応の第一歩として、ぜひ参考にしてみてください。
【飲食店向け】HACCP義務化にどう対応すべき?罰則・対策・運用方法まで徹底解説!
2025/11/14
飲食店におけるHACCP義務化とは?
ここでは、HACCPの概要と義務化の背景、対象事業者について解説します。
HACCP(ハサップ)とは?
HACCP(ハサップ)は、食品の安全確保を目的とした国際的な衛生管理の手法で、食中毒や異物混入といった危害要因(ハザード)を工程ごとに洗い出し、特に重要なポイントを重点的に管理する仕組みです。完成品の抜き取り検査ではなく、調理の過程そのものを監視・記録する点に特徴があり、事故の予防や原因特定がより確実になります。
以下は、管理対象と記録の例です。
以下は、管理対象と記録の例です。
| 管理項目 | 具体例 | 記録内容例 |
|---|---|---|
| 原材料受入 | 温度・異物の有無を確認 | 受入温度・検品記録 |
| 加熱調理(CCP) | 規定温度での加熱 | 加熱温度・時間の記録 |
| 冷却・保存 | 冷却水温や冷蔵庫内の温度管理 | 水温・庫内温度・保存時間など |
HACCP導入は、衛生状態を可視化し、全体の管理水準を安定させる効果が期待できます。
HACCP義務化の背景
HACCP義務化は、食品の安全性に対する国際的な基準に日本が対応する形で導入されました。2020年の食品衛生法改正を契機に、飲食店を含むすべての食品等事業者に対してHACCPに沿った衛生管理が求められ、2021年6月には完全に義務化されています。
制度整備を急がせた主な要因は以下の通りです。
・欧米でのHACCP標準化に伴う、輸出入や外食対応への必要性
・国内の食中毒件数増加と、従来の衛生管理手法の限界
・高齢者や訪日外国人など、健康リスクの高い層への安全性確保の急務
・業界全体の信頼性強化
これらの課題を受け、飲食業界でも計画的かつ継続的な衛生管理体制の構築が強く求められるようになっています。
制度整備を急がせた主な要因は以下の通りです。
・欧米でのHACCP標準化に伴う、輸出入や外食対応への必要性
・国内の食中毒件数増加と、従来の衛生管理手法の限界
・高齢者や訪日外国人など、健康リスクの高い層への安全性確保の急務
・業界全体の信頼性強化
これらの課題を受け、飲食業界でも計画的かつ継続的な衛生管理体制の構築が強く求められるようになっています。
HACCP義務化の対象となる飲食店や事業者
HACCPの義務化は、食品を扱う事業者すべてが対象です。製造や調理だけでなく、販売や配膳を行う業態も含まれ、チェーン店や個人経営の店舗、キッチンカーやカフェまで幅広く該当します。
多くの小規模な飲食店・事業者は、より簡略化された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となります。これに対し、大規模な食品工場や食肉処理場などは「HACCPに基づく衛生管理」が適用されます。
対象・対象外の事業者の例は以下のとおりです。
多くの小規模な飲食店・事業者は、より簡略化された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となります。これに対し、大規模な食品工場や食肉処理場などは「HACCPに基づく衛生管理」が適用されます。
対象・対象外の事業者の例は以下のとおりです。
| 分類 | 具体例 |
|---|---|
| 対象事業者 | 飲食店、弁当・惣菜製造業、旅館・ホテル、学校・福祉施設の給食、八百屋、精肉店など |
| 除外事業者 | 常温保存の包装済み食品のみを扱う販売業者、輸入者、輸送・保管のみの事業者など |
HACCP未対応だとどうなる?
HACCPに対応していない場合に起こりうる主な影響について解説します。
HACCP未対応は食品衛生法違反となり罰則の対象になる
HACCPに基づく衛生管理は食品衛生法で義務付けられています。未対応であっても即座に罰則が科されるわけではありませんが、営業許可の更新時などに保健所の確認が入り、基準を満たしていない場合には行政指導の対象となることがあります。
改善が見られない場合、営業停止や許可取消、最終的には食品衛生法違反として3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円以下)が科されることもあります。
改善が見られない場合、営業停止や許可取消、最終的には食品衛生法違反として3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円以下)が科されることもあります。
行政指導・営業停止・営業許可の取り消しを受けるリスクがある
衛生管理計画や記録が不十分な場合、衛生確保の不備として是正を求められる可能性が高まります。また、多店舗展開している場合、一店舗での違反が全体の信用に影響する懸念もあります。
以下に、違反の段階ごとに想定される保健所等の対応を示します。
以下に、違反の段階ごとに想定される保健所等の対応を示します。
| 状況 | 保健所等の対応 |
|---|---|
| 衛生管理計画なし・不備あり | 行政指導(是正勧告) |
| 指導に従わず改善が見られない | 営業の停止命令・営業許可の取り消し |
| 食中毒など重大事故が発生 | 即時の営業停止・厳重な処分の可能性 |
営業許可の取得・更新ができなくなる可能性がある
HACCPの導入が義務化された現在、未対応では新規出店や更新が困難になる恐れもあります。新規出店や許可更新の際には、衛生管理計画書や日々の実施記録が確認され、不十分と判断されれば、許可が下りない場合もあります。
特に多店舗展開している事業者にとって、一店舗でも営業停止となれば全体の信頼や売上に深刻な影響を及ぼしかねません。
特に多店舗展開している事業者にとって、一店舗でも営業停止となれば全体の信頼や売上に深刻な影響を及ぼしかねません。
食中毒発生時に管理不備として責任追及を受ける可能性が高い
食中毒が発生した場合、HACCPに基づいた衛生管理体制が整っていなければ、保健所の調査において「管理不備」と認定され、営業停止などの行政処分を受けるリスクが高まります。
衛生意識の低さが信用低下につながり顧客・取引先を失う
HACCP未対応は、衛生管理への取り組みに消極的な印象を与え企業の信頼性に影響します。消費者から利用を控えられるリスクや、大手企業との取引条件を満たせず、新規商談が難航するリスクもあります。営業基盤の維持のためにもHACCP対応は重要です。
「本部で把握できない」状態をなくす!多店舗展開におけるHACCP対応の課題
多店舗展開を行う飲食店では、店舗ごとのHACCP対応状況を本部で把握しきれず、衛生管理が属人化・形骸化してしまうケースも少なくありません。ここでは、HACCPを全店で機能させるために乗り越えるべき課題について解説します。
全店舗で統一された衛生管理ルールを策定する
HACCPに基づいた衛生管理を徹底するには、本部主導でのルール整備が欠かせません。店舗ごとのばらつきを防ぐため、明文化された統一ルールをもとに、全店舗で共通の認識と運用を図ることが重要です。
たとえば以下のような内容をルール化することで、実務レベルの差異を抑える効果が期待できます。
・温度管理は測定箇所・時間帯・許容範囲を全店で統一する
・記録方法は様式を共通化する
・清掃や衛生点検は頻度と項目を標準化する
たとえば以下のような内容をルール化することで、実務レベルの差異を抑える効果が期待できます。
・温度管理は測定箇所・時間帯・許容範囲を全店で統一する
・記録方法は様式を共通化する
・清掃や衛生点検は頻度と項目を標準化する
記録ミスや抜け漏れを防ぐ仕組みを整備する
HACCP運用には、記録の正確さと継続的な管理体制も不可欠です。紙ベースの記録管理ではミスや抜け漏れが起こりやすく、現場の負担も大きくなります。
そこで、クラウド型のHACCP管理システムなどデジタルツールを導入することで、記録の精度と作業効率を両立できます。
そこで、クラウド型のHACCP管理システムなどデジタルツールを導入することで、記録の精度と作業効率を両立できます。
・記録テンプレートの標準化:テンプレートで記録内容を均質化。
・IoTセンサー連携:温度管理などを自動で記録し、人的ミスを抑制。
・現場からの即時アラート:記録漏れや異常値発生時に通知され、対応遅れを防止。
クラウド管理で本部から全店舗の状況を可視化する
多店舗チェーンでは、各店舗の衛生管理状況を本部で正確に把握する体制づくりも欠かせません。クラウド型システムでは、日々の記録作業をデジタル化し、本部がリアルタイムで各店の状況を確認できます。これにより、巡回による確認に頼らず、異常への早期対応が可能になります。
たとえば、次のような情報が本部で一括管理できます。
たとえば、次のような情報が本部で一括管理できます。
・記録の進捗と未実施項目の可視化:チェックリストに沿った入力状況が視覚的に表示され、未実施や確認待ちが明確になります。
・従業員の健康状態の一覧化:従業員の体調はタブレット等から入力され、店舗別・日別に一覧化されます。
クラウドによる一元管理は、属人的な課題を解消し、帳票業務の削減や食中毒リスクの低減につながります。
衛生教育とマニュアルを標準化して運用を定着させる
HACCPを形骸化させず定着させるために、全店舗で統一された衛生教育とマニュアルの整備も大切です。店舗ごとに基準や手順が異なると、事故や記録漏れのリスクが増すため、理解しやすく実行しやすい教育体制を整えましょう。
・テキストと動画を組み合わせたマニュアルで手順を視覚化
・多言語対応資料により、外国籍スタッフの理解不足を解消
・eラーニングや進捗管理機能を活用し、教育の継続性と定着率を向上
・テキストと動画を組み合わせたマニュアルで手順を視覚化
・多言語対応資料により、外国籍スタッフの理解不足を解消
・eラーニングや進捗管理機能を活用し、教育の継続性と定着率を向上
HACCP対応を仕組み化するために経営者がやるべきこと
HACCPに基づく衛生管理を形だけ導入しても、店舗ごとに対応がバラバラでは意味がありません。ここではHACCP対応を仕組み化するために経営者がやるべきことについて紹介します。
店舗ごとの衛生管理計画を作成・共有する
安全かつ均一な品質を保つには、衛生管理計画の策定が不可欠です。本部主導で管理ルールや記録様式を統一し、全店舗で共有する体制の整備が重要となります。
実務では、以下のような項目ごとにルールを明確にし、安定した運用を目指します。
・使用水の管理:水質チェックや貯水槽の清掃頻度を定める
・食材の受入・保管:温度帯の設定と先入先出の徹底
・加熱・冷却工程:基準温度・時間と計測器の使用手順
・記録と保管:日報やチェックリストを定型化し、情報を集約
実務では、以下のような項目ごとにルールを明確にし、安定した運用を目指します。
・使用水の管理:水質チェックや貯水槽の清掃頻度を定める
・食材の受入・保管:温度帯の設定と先入先出の徹底
・加熱・冷却工程:基準温度・時間と計測器の使用手順
・記録と保管:日報やチェックリストを定型化し、情報を集約
衛生管理の実施状況を日々記録・保存する体制を整える
HACCPでは、日々の実施内容を記録・保存する仕組みの構築が必要です。本部が記録様式を統一することで、店舗ごとの運用差を防ぎます。
こうした記録は、保健所の監査対応や万が一のトラブル時に、適切な衛生管理を行っていた証拠として機能します。
こうした記録は、保健所の監査対応や万が一のトラブル時に、適切な衛生管理を行っていた証拠として機能します。
全従業員に手順書を周知し教育を徹底する
HACCP対応を確実に実行するには、全従業員が衛生管理の手順を正しく理解し、日常業務に反映できる体制構築が必要です。標準化された手順書を作成し、新入社員や非正規スタッフなどへの指導では、図解や映像資料を用いたわかりやすい説明が有効です。
教育後も受講記録や教育内容を保管し、定期的に見直すことも重要です。
教育後も受講記録や教育内容を保管し、定期的に見直すことも重要です。
| 教育対象 | 内容 | 実施タイミング |
|---|---|---|
| 新入社員 | 手順書の読み合わせ、現場同行 | 入社時 |
| 全社員 | 手順の再確認、改定点の共有 | 月1回〜 |
| 管理者 | 記録方法や指導ノウハウの習得 | 半年ごと |
全従業員に手順書を周知し教育を徹底する
HACCP対応を確実に実行するには、全従業員が衛生管理の手順を正しく理解し、日常業務に反映できる体制構築が必要です。標準化された手順書を作成し、新入社員や非正規スタッフなどへの指導では、図解や映像資料を用いたわかりやすい説明が有効です。
教育後も受講記録や教育内容を保管し、定期的に見直すことも重要です。
教育後も受講記録や教育内容を保管し、定期的に見直すことも重要です。
定期的な検証と見直しで管理体制をアップデートする
HACCPシステムは導入後も、現場の状況に合わせて継続的に検証・見直しを行うことが欠かせません。店舗の設備や人員体制の変化に応じて、潜在的なハザードや管理手段を見直す体制を整えます。少なくとも年1回の定期検証に加え、重大な変更が生じた際には再評価を行い、常に現場に即した管理体制を維持することが重要です。
誰でもできる仕組みで属人化を防ぐ!

