
最終更新日:2026年7月22日
2026年5月8日に開催されたビジネスイベント「札幌国税局・実務のスペシャリストがひも解くバックオフィスDXの最前線」(株式会社北海道新聞社営業局主催)。本記事では、国税庁で大企業の法人税調査や電子帳簿保存法に携わった経歴を持つSKJ総合税理士事務所の袖山税理士の講演をもとに、国税当局の最新のDX動向と、企業が取り組むべき「デジタルシームレス」なバックオフィス体制の構築について解説します。
- 登壇者プロフィール
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袖山 喜久造 氏|税理士/SKJ総合税理士事務所・所長/SKJコンサルティング合同会社・代表社員
国税庁、東京国税局調査部において大規模法人の法人税等調査事務等に従事。同局調査部勤務時に電子帳簿保存法担当の情報技術専門官として調査支援、納税者指導等に携わる。 平成24年7月に退職し同年9月税理士登録。千代田区神田淡路町にSKJ総合税理士事務所を開業。税務コンサルティングのほか、企業の業務DXコンサルティングを行っている。令和元年SKJコンサルティング合同会社設立・代表社員就任。
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目次
- 1.近年の国税当局のDXの状況とAI税務調査の変遷
- 2.AIは何を見ているのか?「税務コンプライアンス」の評価
- 3.国税庁が推進する「デジタルシームレス」とは
- 4.ワークフローシステムの活用:紙書類のデジタル化と承認プロセスの透明化
- 5.AIの評価を分ける「優良電子帳簿」とは
- 6.経理DXによるガバナンス強化の4つのポイント
- 7.全社DXへ向けた実践的ステップ
- 8.デジタルシームレススキーム例:請求書業務の自動化
- 9.全社業務DXの検討例:取引全体の一元管理へ
1.近年の国税当局のDXの状況とAI税務調査の変遷
国税庁は2004年のe-Taxシステム導入以降、長年にわたり税務行政のデジタル化を推進してきました。その普及と並行して、企業のデジタル化を後押しするために電子帳簿保存法の要件緩和も段階的に進められてきたという歴史があります。その後、税務行政の将来像は、2017年の「スマート化を目指して」2019年の「スマート税務行政」構想を経て、現在の「税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)」へと進化しています 。

近年、税務調査の実態は劇的に変化しています。
以下は、毎年11月頃に国税庁が公表している前事務年度の調査事績の数字をもとに作成した、2024(令和6)年度と2014(平成26)年度における、法人税の税務調査の調査実績表です。

10年前と比較してみますと、法人数は約302万から約346万と、44万法人ほど増加しています。一方で、税務調査を行っている件数は95,000件から54,000件と、ほぼ半減しています。
2014(平成26)年度の時点で実地調査の割合は3.15%程度とかなり低いものの、2024(令和6)年度はさらに減少し1.56%しか行われていません。税務調査が来るのはよほどのこと、という状況です。

しかし、調査件数が半分以下に減少しているにもかかわらず、申告漏れ所得は4,895億円から5,297億円へ、420億円増加しています。
また、調査1件当たりの申告漏れ所得は約530万円から約1,000万円へ、不正(重加算税対象)事案についても、不正1件当たりの不正所得金額が約259万円から約545万円へと、それぞれ倍増しています。
この効率的な税務調査を可能にしているのが、2022(令和4)事務年度から導入された「AI調査選定システム」です 。
2.AIは何を見ているのか?「税務コンプライアンス」の評価
現在は、e-Taxで提出された全国の納税者の申告データが国税庁のシステムに集約され、同規模・同業者などの条件で比較・分析されます。AI調査選定システムは、以下のような多様なデータベースを組み合わせて分析を行っています。

- ・申告決算情報:e-Taxの電子申告データや決算書・勘定内訳データ。
- ・資料情報:法定調書、取引先情報、メディア報道など、あらゆる機会を通じて収集した情報。
- ・海外情報・属性情報: 情報交換制度による海外の金融資産情報や、資本・株主などの企業グループ情報。
- ・調査実績:過去の調査実績や納税者情報のデータベース化。
国税庁内では専門チームが分析項目やプロンプトを設計しています。どの指標が有効かを検証しながら精度を高め、これらの膨大なデータをAIが横断的・相関的に分析するのです。その結果、「どの会社を調査すべきか」だけでなく、「どの取引先がリスクか」「架空取引の疑義があるのはどこか」といった具体的な論点まで抽出します。
ひと昔前の、「現場でのやり取りの中で指摘事項をどう調整して乗り切るか」といった税務調査対策は、もはや通用しません。証拠が不明瞭で恣意的な処理が残る「ガバナンスの弱い企業」は、国税庁のAIシステムによって事前に高い精度のリスク判定を受け、的確に調査の対象として抽出されるからです。

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3.国税庁が推進する「デジタルシームレス」とは
こうした厳しいAI調査時代において企業が身を守るためには、業務のデジタル化によるガバナンス強化が不可欠です。そこでキーワードとなるのが「デジタルシームレス」です。

国税庁が示す「デジタルシームレス」とは、単一のデータを扱うことではありません 。見積から発注、納品、請求、支払、そして決算・税務申告に至る一連の取引の流れを、人の手を介さずにデジタルで完結させることを指します。
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4.ワークフローシステムの活用:紙書類のデジタル化と承認プロセスの透明化
業務処理のデジタル化は書類データを添付して社内承認が可能なワークフローシステムが必須となります。現実問題として社内から完全にはなくならない「紙の書類」への対応は電帳法のスキャナ保存に対応したシステムを導入する必要があります。

紙で受け取った書類は、そのままではデジタル処理ができません。そのため、まずはスキャニングを行い、その証憑データをワークフローシステムにアップロードしてデータで回覧・承認を行います。これによりハンコが不要になるだけでなく、「誰が、いつ、どのように承認したのか」という経路がシステム上に明確に残るため、恣意的な業務処理を防止できます。
クラウドシステムからワークフローシステムへ請求書等のデータを自動連携すること、ワークフローシステムに添付された証憑データは、文書管理システムへ自動保存させてタイムスタンプを付与し、検索可能な状態で一元管理する―、また仕訳が発生する請求書などの承認処理後は会計システムに仕訳情報を自動連携する、この「クラウドシステム」「ワークフローシステム」「文書管理システム」「会計システム」の自動連携が、経理DXを成功させる大きなポイントとなります。
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5.AIの評価を分ける「優良電子帳簿」とは
デジタルシームレスな取引によって集約された取引データを最終的に仕訳情報として記録する「帳簿」のあり方も、ガバナンスにおいて極めて重要です。
令和3年度の電子帳簿保存法改正により要件が大幅に緩和され、現在、電子帳簿には簡易的な「一般の電子帳簿」と、より厳格な「優良電子帳簿」の2種類が存在しています。
優良電子帳簿の最大の特長は、一度システムに登録した仕訳データに対し、後から「訂正」や「削除」を行った場合、その履歴がすべて残る仕組みになっている点です。これにより、帳簿作成プロセスの事後検証が可能となり、決算書の真実性や信頼性が担保されます。

国税庁は優良電子帳簿の普及を推進しており、導入企業には「過少申告加算税が5%軽減される」というインセンティブ(優遇措置)を設けています。
しかし、企業にとってさらに大きなメリットは、決算書情報の信頼性を社会的にアピールできることにあろうかと思います。企業が税務調査を受ける場合、不正が疑われる取引や不明瞭な業務処理、恣意性が発生する処理などは調査項目となり深度ある調査が実施されます。逆に業務・帳簿システムや業務処理プロセスの透明性が図られている事後検証できるシステムにより運用され調査結果が良好であれば税務調査の必要度が低い会社と調査支援AIは判断することが想定されます。
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6.経理DXによるガバナンス強化の4つのポイント
ここまでみてきた、税務コンプライアンスに対応したガバナンス強化を実現するための「経理DXの4つのポイント」は以下の通りです。

- 1.デジタルシームレス取引の推進: 取引先(自社)システムから人の手を介さずデータをシームレスに自社(取引先)システムに取り込みます 。これにより、業務効率化のほか、恣意性が排除され正確性が向上します。また、税務的には重加算税の加重措置(データ改ざん時の10%加重)の適用が除外されるなど、処理の信頼性が高く評価されます 。
- 2.ワークフローシステムの導入: 紙書類での持ち回り決裁を廃止し、承認経路や責任の所在をデジタルで明確に残し業務処理プロセスの透明化を図ります 。
- 3.優良電子帳簿の導入: 訂正や削除の履歴がすべて残る帳簿システムを導入することで、帳簿の作成プロセスを事後検証可能にし、帳簿や決算書の信頼性を高めます。税務的には過少申告加算税の税率が5%軽減されます。
- 4.データによる業務管理の徹底: 業務処理や帳簿のデジタル化により業務データや証憑・帳簿データを分析・検討することで業務管理を行い、不正防止や、税務調査や会計監査の事前準備を行うことが可能となります。
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7.全社DXへ向けた実践的ステップ
デジタルシームレスを構築する際、いかに人の手を介さずにシステム間で自動処理できるかを検討する必要があります。例えば証憑画像であるPDFをメールやクラウドで送受信し、AI-OCRで読み込む方式は、業務効率向上には役立ちますが認識率が100%ではないため完全に人の手を介さない処理ではありません。
理想的なのは、CSV、EDI、または国際規格である「Peppol(ペポル)」などのデータ形式を用いてシステム間で直接連携し自動処理することです。たとえば、インフォマートが提供する『BtoBプラットフォーム 請求書』などのクラウドサービスを利用し、CSVデータを自動でアップロード・取り込みを行う仕組みが有効です 。将来的には、Peppolデータと金融機関のEDI(ZEDI)が連携し、自動での入金消込が普及していくと期待されています。
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8.デジタルシームレススキーム例:請求書業務の自動化

では、実際に『BtoBプラットフォーム 請求書』を例に「デジタルシームレス」を実現するための具体的なスキームをみてみましょう。
発行企業は自社の販売管理システムなどからAPI連携でクラウドへデータを自動アップロードします。受取企業側は、画面上でPDFを参照しつつ、裏側ではCSVデータとして受け取ることができます。
このCSVデータを自社の会計システム等に連携させるインターフェースを構築すれば、手入力の業務は完全にゼロになります。このように「データからデータへ(Data to Data)」直接連携することこそが、国税庁が推進するデジタルシームレスの理想形なのです。

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9.全社業務DXの検討例:取引全体の一元管理へ
経理部門での請求書処理がデジタル化できたら、次はそれを「全社業務DX」へと拡張していくことが重要です。なぜなら、請求書処理は一連のビジネス取引の最後に出てくる処理に過ぎないからです。
実際の税務調査では、「この請求書の元になった納品書、検収書、見積書、契約書を見せてください」と、取引の入り口から遡って事実確認が行われます。つまり、見積、発注、納品、検収といった川上から川下までの全プロセスをデータでやり取りし、同じワークフローや文書管理システムで一元管理し、取引全体を俯瞰できる体制を作ることが、結果として最高の「税務調査対策(ガバナンス強化)」になります 。

この全社DXの実現に寄与するのが、同じくインフォマートが提供する『BtoBプラットフォーム TRADE』です。この仕組みを使えば、見積から請求までの全工程をデジタル化し、関連書類を取引単位で紐付けて管理することが可能になります。さらに、社内のワークフローシステムや、文書管理システムと自動連携させることで、強固なガバナンス体制が完成します。

DX推進に課題を感じている企業は、まずは取り組みやすい経理業務(請求書のデジタル化等)から着手し、段階的に全社的な業務システムのDXへと広げていくアプローチを検討してみてはいかがでしょうか。
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監修者プロフィール

『BtoBプラットフォーム 請求書』チーム 編集部
この記事は、株式会社インフォマートが提供する電子請求書サービス『BtoBプラットフォーム 請求書』チームの編集部が監修しており、経理や会計、請求業務に役立つわかりやすい記事の提供を目指しています。電子請求書TIMESでは、経理・経営に役立つ会計知識、DXによる業務改善、インボイス制度・改正電子帳簿保存法といったトレンド情報をご紹介します。『BtoBプラットフォーム 請求書』は請求書の発行・受取、どちらにも対応し、業務効率化を推進します。


