受注業務のIT化で販売管理を改善。
時代の変化に対応し、稲庭うどんの伝統を守ります。
日本三大うどんのひとつに数えられる「稲庭うどん」。その発祥の地である秋田県湯沢市稲庭を本拠に、1976年に創業した「寛文五年堂」様。稲庭ではじめてうどんが製造された江戸時代中期の年号を社名にいただく同社では、当初からの技法をうけつぐ「手綯(てない)うどん」や、油を一切使わない「いなにわそうめん」の製造・販売を手掛けています。
製造業・飲食業界全体が苦境にあえぐコロナ禍にあって、同社は着実に売上を伸ばしています。どのようにピンチを乗り切っているのか。時代を見据えて施してきた販売促進法・業務改善策について、同社の髙橋洋行専務に詳細を伺いました。
ココがPOINT!
- 1販促機能で、新商品や特価品の案内が可能に
- 2スマートフォンで簡単、誰にでも手軽に操作できる
- 3電話やFAX注文情報をデータ化。繁忙期だけでも数時間の省力化
誇るべき地域ブランドの継承にかける思い
― 御社が製造する稲庭うどんの特徴を教えてください。
稲庭うどんには総じて同じことが言えますが、まずは原料の小麦と食塩を吟味し、麺づくりに取り組んでいます。とくに当社では、うどん発祥当時からの製法を伝承していて、とにかく手間ひまをかけて作っています。
同じ味を保つために、気温や湿度に合せて日々、原料の配合を変えることはもちろんですが、さらに生地をこねる作業から、麺の断裁に至るまですべて手作業で行っています。たとえば手綯(てない)という技法では、2本の棒にうどんをかけて、手で撚りを入れながら細くしていくのですが、一連の手作業を通して生地から気泡を徹底的に抜きます。うどんの断面に空洞を作らないためです。
乾燥の過程でも、手間を掛けています。うどんをもう一度寝かせてから、さらに延ばした後、乾燥機と加湿器の両方を使ってゆっくり乾燥させていくのですが、湿度と空気の流れを慎重に調整するためには職人の繊細な感覚が必要になります。こうした製法で作られた麺は、乾麺にも関わらず両端を持って曲げても折れません。しなって、きれいな円弧を描くほどコシの強さが保たれます。
ただし、ほとんどの工程を手作業で行いますので、機械のように早く作ることはできません。でもそれを製造現場では「非効率主義」とうたって、大事にしています。世界的な食品コンクール「モンドセレクション」で、当社のうどんは1999年から13年連続で最高金賞をいただいていますが、この手間ひまかけた製法が評価されたのだと思っています。
髙橋洋行専務
― それだけの商品力がありながら、やはりコロナ禍の影響はありましたか?
もちろん取引先である飲食店からの発注は減りましたが、当社の売上比率が大きかったお土産の需要が落ち込んだのが響きました。秋田では8月に竿燈まつりがあり、また大曲市で全国花火競技大会が開かれます。
ここでの観光客によるお土産需要で、取引先の販売店は年間売り上げの何割分も稼ぐわけですが、これがコロナで中止になりました。当然、メーカーである当社もドンと売り上げを落としました。
― そのような中で、御社では昨年度売上を伸ばしたと聞きました。
実は乾麺の製造業界では何年も前から、ライフスタイルの変化に伴う構造的な変化を迫られていました。
お中元とかお歳暮などの贈り物の機会が減っていて、百貨店やデパートでの乾麺需要が大きく落ち込んでいるのです。当社でもそれまで売上の大半を百貨店に頼っていましたので、新たに販路を構築する必要がありました。
それに加えて、稲庭うどんはもともと製法にこだわっていることもあり、そうじて単価が高くなってしまいがちです。ある東京のホテルのシェフに「世界のパスタ(麺類)のなかでもっとも高いね」といわれたほどです。だから主要な客層は高齢者に限られていて、なかなか若い人に浸透していない、という状況がありました。これを打破していくことが、当社の大きな課題でした。
そこで、まず楽天のECサイトを利用した消費者向け販路の拡大を考えました。当社では楽天を使っており、そのための商品開発を進めました。単に大袋から小分けするのではなく、個人のお客様が購入しやすい価格帯を作って、それに合わせた商品づくりを進めました。
その結果、EC販売を17年続けていたなかでも、昨年は最高の売り上げにつながりました。ちょうどコロナの時期に結果が出たので話題にしてくれるメディアの方もいましたが、それまでに何年もの試行錯誤があったのです。
― 御社では2014年に業務用の受注作業をIT化されています。きっかけは何だったのですか。
まずECサイトでの販売を始めたときに実感したのは、販売管理がラクになったことでした。注文情報がデータとして出てきますので、そのまま出荷部門に回すことができます。決済まで行ってくれるので、請求書などの伝票を起こすこともありません。
その便利さを知って、従来の個人向けでない飲食店や百貨店の受注に関しても効率化を図れないかと考えたのです。そこで『BtoBプラットフォーム 受発注』を導入することになりました。
― 業務の効率化は進みましたか?
大きく変わりました。それまで受注については電話やFAXで行っていて、例えば電話注文の場合、長い時には30分もかかっていました。何度も説明している商品解説から始まって、あれじゃない、これじゃないと、もう雑談の相手になっているようなこともありました。
FAXの場合だと、先方が発注書の裏表を逆にして、白紙のFAXが来ることもありました。数日たって「注文したはずだけど」と電話が入るのですが、どうしようもありませんからね。
電話やFAXで受けた注文については、手書きで伝票を起こし、数量と金額を確認して、出荷に回します。同時に、自社で開発した販売管理システムに入力しなくてはなりません。1件4~5分としても、お中元を直送するなどの大口の場合は、1度に10~20件もの注文を入力しなくてはなりません。それを入力するだけで数時間を取られていました。
受発注システム導入後は、それらの作業から解放されたのですが、大口のデパートや百貨店の場合は所定の専用伝票を使っているので、やはり自社システムには手入力しなくてはいけません。ただインフォマートの受注システムでは、電話や伝票の注文でも直接入力することで対応できます。楽天の注文は楽天の注文管理システムで、業務用は『BtoBプラットフォーム 受発注』でカバーでき、棲み分けて使うことでずいぶん効率化は進みました。
また、当社では2021年に飲食店との取引に特化した受発注システム『TANOMU』を導入しました。これはむしろ、さらなる販路拡大のツールとして使っていきたいと考えています。
今後、個人店でのお土産需要が落ち込んだことから、さらに業務用を拡充したいと考えています。業務用の取引先としては、いまだにメインは百貨店やデパートです。これを中小の飲食店にも広げていければ、さらに販路の拡大が図れるわけです。
その点、TANOMUには、新商品や特価品の案内が可能と聞きました。その販促機能を使って、中小の取引先を確保できるのではないかと考えています。またスマートフォンでの操作やFAXのデータ化も可能です。大がかりなシステム導入には躊躇する中小の取引先にも好都合、というのが魅力でした。
― 消費者のライフスタイルが変わる中、これから取り組むべき課題は何でしょう?
やはり最も苦労するのは商品開発です。デパート向けの商品開発から、個人や中小業者に向けた商品開発への転向は、まったく考え方を変えなくてはなりません。
製造過程で出てしまう麺の切れ端など、これまではじかれるだけだったものが、個人向けには低価格商品として売れ筋になることもあります。当社では乾麺だけでなく、生麺も製造しています。これまで数名の職人しか製造できず、完全受注生産だったこともあり『幻の生麺』といわれていましたが、こちらもネットや個人向けに販売できるようになりました。
乾麺の販売に関しても、これまでとは発想を変えたほうがいいようです。百貨店相手では考えもしなかったつゆとセットにした商品が、個人だけでなく業者向けに売り上げを伸ばしているのです。
個人や中小飲食店のニーズをこまかく探っていき、細かいところに手の行き届いた商品を考えていかなければ、せっかくのツールも台無しになってしまいます。そこがいま一番の課題だと考えています。
― 伝統製法を守るためには、時代の変化への対応が必要ですね。
当社では、うどんの品質こそが命と考え、製造現場では、あえて非効率主義を貫いています。その分、裏方では思い切った効率化を進めなくてはいけません。
それと、今後この製法を何年も守り続けるには、やはり人を大事にしていかなくてはなりません。とくに地方では過疎化が進んでいて、ただでさえ人材が足りません。少ない人材を少しでも多く当社にとどまってもらうには、やはり働き方の改革が必要です。
地域の味、地元の文化を守るためにも、当社のやるべきことだと考えています。
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株式会社寛文五年堂
設立 | : | 1998年 |
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事業内容 | : | 飲食・製造(いなにわ手綯うどん、いなにわそうめん)販売(いなにわ手綯うどん・そうめん、寛文のつゆ) |
代表者 | : | 代表取締役 佐藤君藏 |
本社所在地 | : | 秋田県湯沢市稲庭町字三嶋34 |
企業サイト | : | https://www.kanbun.co.jp/ |
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